住まいまちづくりコラム

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第三世代の都市研究所スペーシア

 

■一代目 創業から評価確立までのスペーシア(19902010年)

20209月に代表取締役の交代があった。三代目である。J Soul Brothersの話ではない。

 19907月に都市研究所スペーシアを設立した。ちょうど東武鉄道が日光へ走らせる特急の名称をスペーシア号と名付けた年である。スズキのスペーシアが発売されたのは2013年と随分後になる。ちなみに、当時ネットで“スペーシア”を検索すると、商品名では天体望遠鏡やペアガラスという物理的空間にかかわるのものが、店名ではクラブ・スナックという心を癒す空間にかかわるものが多かった。何か売りを打ち出そうと考えたのが、「最も県庁・市役所に近い建築系コンサルタント」であった。あえて「建築系」を付けたのは、「土木系」にもっと物理的に近いコンサルタントがあったからだ。

 設立した当時はバブルの絶頂期で、当初事業計画では10年後に50名規模の事業所になることを描いていたが、船出したとたん、バブルがはじけて大嵐に突入したため、最大で13名となった。わが社の事業の柱が都市計画分野の受託調査と都市再開発分野の推進事業の2本立てであり、前者は金額が大きくないが、毎年一定額以上まで積み上げていくタイプだが、後者は金額が非常に大きいものの、再開発事業の進捗状況によって発注に波が生まれてくるタイプである。企業としては売上の安定化が求められるが、うまくいかない。2005年までの売上はよかったが、それ以降は下降気味で推移した。調査等の発注方法も大きく変化した。当初は随意契約が多かったが、2000年以降からか、入札やプロポーザルに転換していった。発注選定の説明責任が問われてきたからだ。よって、プロポーザル作成とプレゼンテーションの能力を高めていくことが求められた時代であった。

■二代目 存在意義の再考と働き方改革を模索するスペーシア(20102020年)

 二代目は2010年からで、企業体としてどんな存在意義を打ち出していくのかを模索した期間である。再開発事業は実績を積み上げてきたので、プロジェクト受注は安定しているが、売上は相変わらずの不安定である。都市計画分野では多種多様であるが、最近ではGIS等データを活用するものが増えてきている。データ処理技術と分析能力を併せて高めていく必要がある。さらに空き家活用などのまちづくりを地域住民と役所と連携していく事業も増えているが、どういうわけか予算はつかない。まちづくりコーディネータは誰でもできると思われているのか、金銭的評価は高くない。

 業務の発注のほとんどが地方自治体である。最近は自治体の仕様書を作成する能力が落ちていると感じざるを得ない。発注者の仕様書があいまいだと見積もりも作業内容も成果も、すべてあいまいになる。当初にはなかったが、途中で実施しなければならない項目が明らかになることを想定して、それに対応できるような条項(指示されたことは実施すること)が仕様書に加えられる。果たして報告書の1/3が追加作業となった事例がある。それによって委託費が増額になることはない。いい成果を出すためには、明確な目的と作業方針を発注者が持ち、指示解釈力と的確な遂行能力(改善提案能力を含む)をコンサルタントが持ってこそ実現できる。いい成果が得られなかった場合は、双方に問題があるのであって、コンサルタント一方だけの責任ではない。

 この間、職員の入れ替わりもあり、3人の新メンバーが加わっている。昔のようにイケイケドンドン、徹夜バンバンで仕事を遂行する時代ではない。ワークライフバランスを考えて働く時代になっているが、問題は労働生産性を高めることと対で応じていかないと倒産してしまうことである。そして、今年のコロナ禍である。

■三代目 アフターコロナの新常態を追及・確立するスペーシア(2020年~)

 今年のコロナ禍で働き方改革は一気に進むであろう。リモートによる在宅勤務も取り入れている。リモートワークによって社員でなくても、そのテーマに相応しい人材が集まってタスクフォース型のメンバー構成で業務能力を高めることが可能になるだろう。いい人材とうまくネットワークが組めるかが課題である。人材交流のハブになれないか?

 個別の分野については、より専門性を高めていかないと単なる作業屋になり、いずれ消えてしまう職種になりかねない。先に述べたGISやビッグデータの扱い、場合によっては例えばドローンの活用(何に活用するかは未定)を含めてどうするか。ただ、人材にも限りがあるので、どの分野で打って出るかは先見性が必要だ。

 上記の人材と新技術の関係性から言うと、今流行りのデジタルトランスフォーメーション(DX)をスペーシアのような零細企業でどう取り入れていくのかが課題となる。

 もう一つのテーマは地域マネジメントである。アフターコロナの時代はコミュニティの価値が高まるが、そこには様々な課題が内包されている。例えば高齢者や母子家庭等を中心とした福祉サービスやよりよい居住環境を育てていく地域管理であり、前者は地域包括ケアとして、後者はエリアマネジメントとして語られることが多い。求められるのはそれらを包摂した地域総合マネジメントに行きつく。ボランティアでなくビジネスを成立させながら一翼を担えるか?

チャレンジすることは一杯あるのだが、古参は古参なりに、中堅は中堅なりに、そして期待大なのが若手のチャレンジが新たな道を切り開いていくことになるだろう。前途酔う様ではだめで、前途洋々を目指していきたい。

 

(2020.9.15/井澤知旦)

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