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町の未来をこの手でつくる  紫波町オガールプロジェクト/猪谷千春

幻冬舎/2016年9月25日発行

 オガールプロジェクト。地域で街づくりを実践する方との会話で出たキーワードで、数年前に取り組まれた地方再生プロジェクト。本書はそのプロジェクト誕生に関わった人々の紹介とその道のりを綴った一冊。
 オガールは、岩手県紫波町の公有地約10haをPPP手法を用いて活用し、主な施設に図書館等を備えるオガールプラザ、民営によるバレーボール専用アリーナ等のオガールベース、国内最大級の木造の役場庁舎等を備えた複合開発で、2012年に誕生した。民間に委ね民間の市場原理に沿った形で進められたこともあり、地方創生の完成事例としてその当時は取り上げられた。
 オガールの着目すべきは、施設の斬新さとともに補助金に頼らず、稼ぐインフラ(ここでは図書館)を整備したそのスキームにある。再開発事業など行政が関わる開発の多くは、兎角補助金頼みで、上物整備が優先され、後から需要を掘り起こし破綻するケースも少なくなく、オガールの思想は、回収できる範囲で事業をする、事業の順序を重視したプロジェクトでもある。
オガール成功の背景には、推進役の民間人と両輪となった町(町長とその町職員)、金融機関、さらに地元住民らが密接に関係をもち取り組んだことにある。ただ、初動期にはPPPが理解しがたく黒船と揶揄され、それでも地道に対話を重ね理解を深めた経緯が記されている。住民とのワークショップでは、「何が欲しい」かではなく「どういうことをしたいか」と問いかけ理念を共有し、施設の活用方法やルールなどへ反映させている。
 また、公共施設は町役場、図書館、給食センターのみにとどめ、長期ビジョンの目標に掲げた持続的発展、経済活性化を実現させるため町の産業であった農業のブランド化、観光開発、スポーツ振興という特化した機能導入等にも取り組んできたことも注目された。
 特に、スポーツ振興の一環で整備したバレーボール専用コートは国内には珍しく、関連施設を充実させたことで注目も集め、2020年東京オリンピックにおいてカナダのホストタウンに登録されている。決して大きくはない市場で整備に対して反対意見もあったが、一方で確実にニーズがある分野でもあり、そこに着目した成果といえる。
 オガールが進めた理想的な順序での開発の重要性は理解しつつも、日々業務で取り組んでいる再開発事業が開発先行で、その仕組みから後から需要を掘り起こさざるを得ない現実は改めて悩ましく思う。山々に囲まれた紫波町の風光明媚な風景写真から、低層階に抑えたオガールの各施設が周囲に馴染み魅力的に映る。プロジェクトが完成し数年が経ち、町として熟成されつつであろうオガールを機会があれば目にしたい。
(2019.9.21/村井亮治)

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