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「自転車に冷たい国、ニッポン −安心して走れる街へ」/馬場 直子 著
 岩波ブックレット/2014年9月26日発行

 毎日新聞の自転車問題キャンペーン「銀輪の死角」をスタートさせた馬場記者が、自転車を取り巻く現状を63ページと少ないページで、簡潔にまとめたのが本著である。2020年の東京オリンピックは、日本が車社会から脱出するチャンスであり、大規模に街や道路を見直すこの機会に歩行者や自転車が安心して通行できる街を目指すべきという著者の考え方には非常に共感できる。
 また、自転車事故は全体的には減少傾向にあるものの、歩行者との事故だけは増加傾向にあるそうだ。そして、2010年に法律雑誌上での交通事故専門の裁判官による討論で「歩道上の事故は原則、歩行者に過失(不注意による落ち度)はない」という「新基準」が出され、全国の裁判でも参考にされているようである。
 道路交通法では歩道上の自転車通行が原則禁止され、通行できる場合には歩行者の安全に注意する義務があるという裁判官の指摘も確かではあるが、自転車の車道通行が一般的に浸透していない状況での「新基準」に疑問を呈する弁護士の方が理にかなっているように思う。自転車に乗った小学生が歩行者に重傷を負わせた事故で、2013年に小学生の母親に約9500万円の賠償が命じられた判例など、自転車で歩行者を死傷させた場合に、高額な賠償を命じる判決が相次いでいる。
 改正道路交通法や国土交通省ガイドラインによって、自転車の車道左側通行への転換が図られているものの、自転車レーンの整備も自転車利用者の意識改革もまだ十分とは言えない。しかしながら自転車は、交通社会全体でみれば弱い存在であるものの、さらに弱い存在の歩行者を傷つけてしまうことが問題であることは間違いない。これまでは、自転車は車にはねられる被害者という意識が強かったとは思うが、これからは自転車に乗れば子どもであっても加害者になる可能性があり、交通安全の義務があることを認識すべきである。短時間で読むことができるので、自転車に乗る方はもちろん、自身が自転車に乗らなくても自転車に乗る子どもを持つ親御さんには是非読んでいただきたい。
(山崎 崇)

(2011.11.10/山崎 崇)