特集  都心ナゴヤに負けない地域の力

市民がつくる安全な暮らし
〜春日井市の防犯まちづくり〜

石田 富男

NHKの「難問解決!ご近所の底力」という番組がある。まちづくりを考える上で地域のコミュニティが重要な役割を果たしていることを改めて感じさせられるが、昨年四月に放送が開始され、すでに二度も番組でとりあげられたところがある。それが春日井市の防犯まちづくりの取り組みだ。

春日井市安全なまちづくり協議会

行政と市民が一体となって、「犯罪や災害に強い都市基盤の整備」と心のふれあいと連帯の中で、安全のネットワークづくりを図ることを目的として、平成五年に設立された。  協議会の活動を推進していく上で大きな役割を果たしているのが「春日井安全アカデミー」だ。市民に対し安全に関する情報と知識を提供することを目的としており、平成7年にスタート。基礎教養課程3コース各7講座、専門課程2コース各7講座がある。もともとは防災コースから始まり、生活安全コース、子育ちとコース対象を広げており、講義をもとに、講座の教科書となる本も出版されている。専門課程は基礎教養課程卒業生を対象としたものであり、この専門課程卒業生の中で希望者が養成講座を受けボニターに登録している。ボニターとはボランティアとモニターの造語であり、地域の安全リーダーとして防災訓練やくらがり診断、安・安診断などにボランティアとして活動するとともにモニターとして地域の安全に関する提言を行っている。平成15年の時点で140名もの人が活動しているというから驚きだ。 また、アカデミー卒業生を中心に春日井安全・安心まちづくり女性フォーラムという組織も発足しており、女性の視点や生活者の視点による安全なまちづくりに向けた市民主導の調査研究・啓発活動を実施している。市内38の全小学校区において、地域住民・児童とともに防災・防犯・交通の三項目の安全マップを作成し、平成14年度からはこのマップによる総合学習の時間を利用した安全啓発授業も実施している。

防犯まちづくり・モデル地区調査

勝川駅南:立体換地ビル
勝川駅南:立体換地ビル
 松新町地区内。左が住宅棟で2階に子育て子育ち総合支援館がある。「子育ち」という名には、子どもを忘れた子育てから「子ども」をとりもどすという思いを込めて子ども自らの「子育ち」を達成しようという意図がこめられていう。
2002年11月に都市再生本部が進める「防犯まちづくり」のモデル調査地区(全国で6地区)の1つとして春日井市松新町地区が選ばれたのはこのような防犯まちづくりについての先進的取り組みがあったからだといえる。たまたま、対象地区でワークショップによるまちづくりのお手伝いをさせていただいていた関係でとりまとめを担当することになり、春日井市の先進的な取り組みを知った。 モデル地区としては、区画整理事業などが進展する中で犯罪情勢がどのように変化しているのかという実態を把握し、今後の市街地整備における防犯まちづくりの視点からの課題を示すとともに、対象地区での今後のまちづくりの中での防犯まちづくりの面での対応方策をとりまとめることに主眼をおいたが、春日井市の先進的取り組みの情報発信という点も重要なポイントとしておいた。 調査の中で地元住民やボニターの方々に話を聞いたが、近年、犯罪が増加し、住民の方々の不安が増大していることがわかった。公園整備についても、これまでは緑一杯のまちづくりという視点から、できるだけ緑豊かにと思っていたが、犯罪を心配する人にとっては緑によって死角が生まれるのは大きな問題で、「公園に木はいらない」という人までいたことには驚いた。公園は地域の人々に愛され、利用されることが犯罪防止の上でも重要だ。そのためには計画づくりの段階から住民の声をいれていくことが求められる。改めて住民参加による公園づくりの重要性を認識した。 近年、日本の安全神話が崩れ、犯罪が増加しており、防犯はまちづくりの大きなテーマとしてあがってきている。死角をつくらないということは重要であるが、犯罪防止の上でもっとも効果が高いのは「近所の人の目」。地域のコミュニティがしっかりし、誰もが気軽に声をかけることのできる環境をつくることが重要だろう。春日井市の「市民がつくる安全な暮らし」の取り組みに注目したい。
 
くらがり診断
 住民と春日井市安全なまちづくり協議会が30mメッシュごとにくらがりを診断。アンケート調査結果とともにくらがりの解消策(道路棟や防犯棟の設置など)について地元と調整を行うものであり、平成6〜14年度の9年間で558基の防犯灯、道路灯が設置されている。

安・安診断
 ボニターが市民に対して防犯意識の啓発や被害にあいにくい工夫を指導・助言するもので、チェックシートによる簡易な防犯チェックを行っている。

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