スペーシアレポート

西春町 西春駅前地区の再生
〜新たな生活拠点整備が本格的に始動〜

浅野泰樹

 愛知県西春町。人口3万3千人の町の玄関口づくりをめざして長年進められてきた名鉄犬山線西春駅西地区の区画整理事業で、建物の移転がようやく始まった。

 平成2年に都市計画決定された駅西口広場(面積2300u)、西春駅西線(幅員18m)等の整備と商店街の再生等を目途として、約3.16fの区域を対象に平成9年に土地区画整理事業(沿道区画整理型街路事業)の都市計画決定、平成11年に事業認可がされた。現在では、建物の移転計画が明確になり、権利者が店舗や住宅の移転・建設を身近なものと意識できる状況になり、景観形成の検討が始まっている。イベント等ソフト面における共同事業では成果をあげている商店街でも、こと建物の協調・共同化となると、その必要性は認識されるが、自分の建物は制約を受けたくないと本音が飛び出す。なかなか全体としてのルールが定まらない。そこで、壁面後退や屋根の形等のデザインコードに関して、権利者が議論してルールを決めるのではなく、権利者自らが自分の建物を考え・デザインすることにより、共通する又は若干の調整で共通化できるデザインコードを模索している。

 そのような中で、土地所有者3名が発意、建物を協調して建替え、生活拠点を創ろうという活動が本格化する。3筆約820uの敷地に優良建築物等整備事業を活用し、約180uの「パティオ(中庭)」と3棟の店舗及び住宅(延床面積約1500u)を整備するプロジェクトである。敷地の共有や建物の共同化には権利者も抵抗がある。パティオを囲み3棟の建物を各の敷地上に独立して建て、建物相互間を2階のデッキで結ぶという「柔らかい共同化」が選択された。パティオという新しい空間は、多面的な活用が可能であり、これまでの商店街にない魅力となろう。パティオやデッキの整備は、駅前通りに面しない敷地での店舗建設を可能とし、通り沿いの二敷地もパティオ側にも店舗の表情が作れるため、商業用地としての利用価値が高まる。また、土地の高度利用により、若者から高齢者までが快適に居住できる環境共生型の賃貸住宅の建設も計画されている。

 商店として空地は駐車場にできる貴重な空間であるが、まちづくりの視点から土地の利用方法を考え、駅前地区の魅力ある生活拠点形成をめざそうという権利者の思いが、パティオの創出と協調建て替えという形で実を結ぼうとしている。敷地規模に若干のゆとりがあり、パティオのために最も多くの土地を拠出する権利者、杉村さんは、「自分が土地を提供することで、全体の土地の利用価値が高まる。まちが良くなることで、自分の店舗も潤うことができる。一国一城の主、自分の土地に固執し、自分のことばかり考えている時代ではない。皆が少しでも協調・譲り合いの精神を持たなければ、まちは滅んでしまう。」と、穏やかな口調で語っている。
地方都市の商店街がどこも苦戦する中で、こうした商店主のいる西春駅前地区の生活拠点づくりが、商店街再生の契機・モデルとなることを期待したい。

西春町パティオ事業イメージ模型

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