スペーシアレポート

実践!地域連携 やきもの交流サミット

 古池嘉和

 東海地区の主要なやきもののまちとして知られる多治見市と笠原町(美濃焼)瀬戸市・常滑市・四日市市(萬古焼)が共同して、交流を深めながら共通の大消費地である名古屋市でやきもののPRを行うイベント「やきもの交流サミット〜美濃・瀬戸・常滑・萬古〜」が開催された。開催日時は、1999年6月26日(土)、27日(日)である。今回のサミットの会場となったのは、明治初期から大正期にかけて陶磁器問屋や輸出陶磁器関連事業所が集積するなど歴史的に陶磁器産業との関係の深い名古屋市白壁地区である。

トップ会談

 主な催しとしては、各自治体の市町・町長が一堂に会し、やきものの未来を語り合う「やきものトップ会談」、大正モダン建築の旧館を香りや四季などのテーマで演出する展示コーナー、やきものの音楽演奏などでである。
 「やっぱりうちのやきものが一番」と題して語られた「やきものトップ会談」では、それぞれの産地のやきものの特徴ややきものを使ったまちづくりの事例紹介などがされたあと、業界と行政の壁を越え、また産地間の交流と連携を強化していくことで、今日の厳しい経済環境を乗り越えていくことなどが話し合われた。


左から、コーディネーターの下垣氏、常滑市長、四日市市長、瀬戸市長、笠原町長、多治見市長。産地間の交流と連携を語り合った


展示会の開催

 同時に開催した展示会は、2カ所に分けての開催となった。「やきものトップ会談」の会場にもなった「加藤邸」では、日本庭園もある昭和初期の近代建築に負けないような演出を各産地が競い合う産地別の部屋を設置してのやきものの展示となった。一方、大正モダン建築でもある旧豊田佐助邸では、一階部分を日常(ケ)、二階部分を非日常(ハレ)をモチーフにした展示が行われた。一・二階ともに、さらに四季を展示コンセプトにした部屋割りが行われ、それぞれに四つある展示室を一巡すると四季を器を通して感じることができるようになっている。ここでの展示は、産地を問わずテーマに見合う器を選ぶことで、産地間の交流が促進されるようになっている。
 また、イベントの一環として、音楽セッションを行った。常滑の渡辺敬一郎氏によるオカリナの演奏である。加藤邸の日本庭園をバックに開催され、庭の風景と、やきもので作られた楽器の演奏がマッチし、午後のひとときをやさしい時間が包みこんだ瞬間でもあった。
 このイベントを主催したのは、高田陶磁器工業協同組合の水野実夫氏を実行委員長とする「やきもの交流サミット実行委員会」であるが、その母体となったのは、「やきもの産地 交流・連携推進協議会」である。この協議会は、多治見市・笠原町・瀬戸市・常滑市・四日市市の四市一町が構成している協議会であり、東海地域のやきもの産地による広域的な連携により、産業振興やまちの活性化について検討している団体である。愛知県・岐阜県・三重県の県境を越えた産地の連携であり、地域連携のモデルとして注目されている。


加藤邸での展示風景。日本家屋にもやきものが馴染む。

旧豊田佐助邸での展示風景


ドキュメント

 イベントは、前日の会場設営からはじまった。トータルコーディネーターとしての指揮を採った多治見市意匠研究所の石塚氏と山下氏の努力でなんとか準備が整った頃、時計の針は午前零時に近づいていた。イベント当日は、朝からの雨で、実行委員会のメンバーからは、早くも集客の心配をする声が上がった。そして、何とか雨が上がった午後一時に予定どおりテープカットする運びとなった。そして、その頃には、開場を待つ人が列をなし、テープカットは委員会のメンバーがほっと胸をなでおろした瞬間でもあった。

実践としての連携

 今回、実施された「やきもの交流サミット」は、単なるイベントを超えた意義を持っている。それは、イベントの実施主体となった「やきもの交流サミット実行委員会」である。この組織は大きく二つの特徴を持っている。官民が一体となった組織であることが一つ。そして、行政が連携して母体を形成したことがもう一つの意義である。交流あるいは連携が声高に叫ばれる中で、一体、どのくらいの地域からどんなアクションが起きてきたか。その一つの答えを提示しているような気がする。
 愛知県・岐阜県・三重県という3県をまたいだ自治体の連携がこのイベントを支えている。それそれの産地は、共通して厳しい経済環境下に置かれている。こうした中で、地域の地場産業を共通項とし、地場市場形成への試みとしてのイベントが、単なるイベントを超えた、交流と連携による地方分権への新たな流れを呼び起こす契機になるかも知れない。

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