スペーシアレポート

〜やわらかな共同連帯化〜商店街 一国一城の主たち

山内豊佳

 商店街を活性させるのは、誰でもない当の商店主たち。しかし、何もしなくて現状のままを期待するだけの商店主は多い。その上誰もが「おつきあいならするよ」の姿勢だから、いつまでもリーダーは不在。護りに入った商店街に魅力は消え、ますます客は遠のいていく。中心市街地の活性にかかわれば、この現状に必ず当たる。
 しかし商店主は皆、本当は商売の達人。商売人としての技やプライド、腹底の気合を、商店主たちは確かに持っている。軽快にやりとりされる客との駆け引き、商人のルールで業者と交わす息のあった間合い。それが商店街に人を寄せるエネルギーだった。商店主は商品売っているだけじゃない、コミュニケーションのプロでもある。だからもう一度プライドをもって、商店主の心に商人の炎を燃やしてほしい。それが商店街活性化へのはじめの一歩である。
 そのプロ意識をもった商店主たちの結集、二つのパティオ事業を紹介したい。
 「商店街では誰もが一国一城の主、同じ時間にシャッター開け閉めする共同ビルでは自分の商売はできやしない。それはわがままじゃなくて、店の個性づくりのため必要不可欠なこと」と、聞かせてくれたのは秋田市「サン・パティオ大町」の竹屋理事長。商店街で「一国一城の主」とは、悪い意味で使われることが多いが、個性を活かすことこそが商売の本質である。ロードサイド出店で、空き地が増える商店街の中「この街で皆がもう一度商売できるようにする!」と理事長は決意した。その挙げた手に個性豊かな商店主たちが集まってきた。裏手にできた、蔵を利用した地ビールレストランの再開発も人気を助け、パティオ周辺は新しい賑わいの中心となりつつある。
 「商店街と心中する」ことになってもかまわないと言いきってきた竹屋理事長の顔は、兜をかぶった武将のよう!?

サン・パティオ大町

理事長 竹屋直太郎氏

サン・パティオ大町
平成9年4月オープン
秋田市大町1丁目2-17
建築施設/店舗、店舗併用住宅、40台駐車場

地ビールレストラン「あくら」
 「自分はこの商店街に育てられ、ここで商いしてきたことが自分の生きざまだった」と語ったのは徳島市「パティオくらもと」の並川理事長。氏にとって、「商店街が消えることは、今までの自分を否定されるのと同じこと」だった。大型スーパー撤退を境に、商店街の店数は1/3に減り、残った店も出て行くと聞いたとき、並川理事長は「あと二年だけ待ってくれ」と店主たちに頭を下げた。資金難からコンサルも入れず、自らの手と足で手続きを進め、ついに約束の二年後、「パティオくらもと」を立ち上げた。それまでの無理がたたりオープンの日に病に倒れた並川氏、現在副理事長に座は移したものの、その心意気を汲んだ仲間たちと、高齢者を対象にした「御用聞きシステム」をはじめた。「豆腐一丁でも届けよう、トラックはうちのを使えばいい」全国でも有名になったこのシステムは、昨年6月で550名もの登録者を持っている。
 「何年もかけて作る地域住民との信頼関係は何ものにも負けはしない」と、並川氏は話を結んだ。
 全国でまだ三事例しかないパティオ事業。しかし昨年、新たに空地の条件が緩和された。五人の商店主が声をあげれば利用できるこの事業は、今後一層注目される制度となるだろう。日本全国、街の一国一城の主たち、自分の城をどう築いていくのか。商店主たちの胸にくすぶる心意気の炎を、新時代に向けた今こそ、力強く見せてほしい。

パティオくらもと
前理事長 並川敏明氏

パティオくらもと
平成9年12月オープン
徳島市蔵本町2丁目30番1
建築施設/店舗、コミュニティホール

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