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〈小さい交通〉が都市を変える マルチ・モビリティ・シティをめざして/大野秀敏 佐藤和貴子 齊藤せつな

NTT出版/2015年9月17日発行

本書では高速鉄道、飛行機、高速道路などの大きい交通と対の概念である小さい交通をテーマにしている。小さい交通としてまず挙げられるのは日本でも多くの人が使用している自転車だが、それ以外のまだまだ知られていない小さい交通を取り上げている。
前半では高齢者や障がい者が自力で自由に動くことを助けるための足漕ぎ車椅子、電動車椅子や日常生活での短距離の移動を想定したパーソナルモビリティなどの乗り物が紹介されている。乗り物の説明文、写真とともに開発者や発案者がどのような経緯で作ったのか、またどのような展望を抱いているのか記載されているため、表面化されていない課題があることを知ると同時に小さな交通が課題解決できる可能性を持っていることがわかる。
都心部では公共交通が充実しているが、その他の地域での日常生活の移動手段は徒歩、自動車、自転車といった高齢者にとっては負担となるものばかりである。身体が自由に動かすことができ、体力も十分にあったころは問題にならなかった移動が高齢になったとき身体への負担や安全面での不安から困難なものと変化してしまう。このような大きな交通と歩行の中間で悩む人に小さい交通という新たな選択肢を提案しているのが本書である。
また、小さな交通の対象者は高齢者や障がい者だけではない。後半では観光においても小さな交通を取り入れることを提案している。徒歩はつらいが、タクシーを呼ぶほどではないといった観光地間の移動や車やバスでは通ることのできない路地などで小さな交通を活用することで観光の幅がさらに広がると述べている。SNSを活用している世代は有名どころの観光地に加え、あまり知られていない魅力的なスポットに行くことで特別な感覚を得る。そのようなニーズにとって一般的な観光ルート以外にも足を延ばすことができる小さい交通は非常に有効的であるといえる。
大きい交通と小さい交通は敵対する関係なのではなく、共存して用途に合わせて使い分けることで移動の可能性を広げるものであると本書を通じて感じた。私たちの生活をより良いものにしていくためには大きい交通だけに頼らず、小さい交通という新たな選択肢が必要であるとこの一冊から教わった。
(2021.4.7/安間和奏)

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