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CREATIVE LOCAL:エリアリノベーション海外編/馬場正尊・中江研・加藤雄一(編著)他

学芸出版社/2017年12月6日発行

私は、学部の卒業論文で、どうしたら人々が都市生活を水辺空間を通して楽しむことができるか研究した。メインはペルーのリマク川で、現在もエルニーニョ現象で毎年氾濫が起き、昔はデートスポットだったリマク川も、今ではゴミ箱のような扱いである。
リマク川や他の事例を研究しているうちに、たとえ行政がリマク川を綺麗にしても、今のままでは、リマク川はすぐ汚くなるだろうと感じた。リマク川周辺には汚染物質を流す工場がいくつかあり、川は生物が生存できないほど汚染されていた。川を掃除するのは市役所から雇われた人とガジナーソと呼ばれるカラスの2倍は大きくみえる鳥だ。どんなに川が濁って、ゴミで溢れていても人々はゴミを川に捨てるし、中には川に蓋をしてしまえという人もいる。私は、市が政策をただ行うだけでなく、市民を巻き込みつつ、その過程で市民を教育をすることが必要であるという結論に終わったのだが、この表現に少し納得がいかなかった。

 この本の中で、「チリ:建築家の社会構築的アプローチ」というタイトルで山道拓人さんがエレメンタルのソーシャルハウジングを紹介している。エレメンタルはチリのアレハンドロ・アラヴェーニャという建築家が率いるチームだ。いくつかある事例の中で、コンスティトゥシオン市の復興計画「PLES」:問いをクリアにする社会構築的アプローチが非常に印象に残った。
 コンスティトゥシオン市では2010年にマグニチュード8.8の地震と津波に遭った。そこでエレメンタルは住民たちが計画について話し合う小屋「オープンハウス」を設置した。そこでは解決策よりも問いに重点を置き、そもそも何に取り組むべきかという問いをクリアにしていった。そして、津波対策だけでなく、インフラやパブリックスペースも足りないという結論に至った為、「防潮堤」ではなく海と街の間に「森」を配置した。そうすることで、津波対策、雨水の貯水池、公園の機能も持つことができる。合理的だなと思った。本書によると、プロジェクトの課程で住民に複数の提案を示し、投票で優先順位を決める合意形成システムを採用している。オープンハウスで行われる市民を巻き込む議論は、市民が自分たちが主体で行われていると責任感を持つことができる。山道さんは、これを当事者をデザインするアプローチと述べた。私はこれにとても共感した。エレメンタルの「Design the Client」というアプローチは、発注者は行政でも行政だとしても、主体は住民であり、そのことを明確にし、住民と共に問いを立て直すやり方は問題の本質を見出す。しかも、住民に責任感を持たせることが出来る。当事者をデザインするアプローチ「Design the Client」という言葉とこの本にもっと早く出会いたかったと思った。他の事例もとても分かりやすく、合間に挟まれている写真も沢山あり、見ていて楽しい本だ。
(2019.3.14/神谷佐菜)

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