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徒然随筆「料亭建築と文化性03(洲さき)

 高山市神明町に老舗料亭「洲さき」があります。国の重要伝統的建造物群保存地区(以降三町伝建地区という)の南端で上三之町の南に位置し、宮川にかかる中橋のたもとにある歴史的建造物です。旧高山市役所の隣で派手な看板など無く、歴史ある暖簾があるだけなのでつい見逃してしまうような歴史的建造物です。
 料亭「洲さき」は創業が寛政六年(1794)、約220年続く料亭で岐阜県では「水琴亭」、「千歳楼」、「長多喜」に並び称される老舗料亭です。洲さきの特徴は宗和流本膳料理で、高山市城下町を創った金森長近の孫で宗和流茶道創始者である金森宗和ゆかりの料理です。内容はホームページに譲りますが、洲さき御用達の食材(酒、魚、野菜など)と料理人の腕による本格的な日本料理です。
 建築及び文化財的視点から見ると、玄関(外ドジという)、土間(内ドジという)を通ると創建1794年の主屋になっています。ここには1年中火を絶やさない囲炉裏があり、来客を出迎えてくれます。更に奥に入ると、1階は数奇屋風個室の「松の間」「川の間」「雪の間」が、2階は書院風大広間で「一の間」から「七の間」まであり、襖や稼動壁で仕切れば7室に、全てを撤去すると75畳の大広間になります。「一の間」は皇室も利用し、司馬遼太郎など文化人の利用もあり「街道を行く」など種々の書籍や雑誌に掲載されています。平成22年度に建物調査を行い、棟札、使用木材、寸法等詳細に調査しました。
 洲さきのハード面での価値に加え、ソフト面での価値は特筆すべきものがあります。まず2月に行われる「節分会」、秋に行う「観月会」といった催事、食事時の作法で「目出た唄」まで席を立たない決まり事、1年365日欠かさず朝からスタッフ全員で行う掃除(女将も主人も行う)、和服によるおもてなしと流麗な配膳等、見えなくなるまで見送ること等、枚挙に暇がありません。
  洲さきのある三町伝建地区は上一之町から上三之町までの地区で、江戸時代後期から明治後期までの建造物が多く、高さの揃った町並み景観が残されています。この町並みは行政の支援もさることながら、住民の自主規制がありコミュニティが持続している稀少な町です。洲さきの暖簾は、洲さきとしか記されていないので奥ゆかしいですが、思わず見とれてしまうような風情があり、長く保存されてほしい建物です。





(2014.7.7/嘱託研究員・田中清之)