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温泉と観光

岐阜県下呂市
  仕事の関係で下呂へ行った。平成16年3月に5町村が合併して下呂市になった。下呂といえば温泉である。多くの温泉地がそうであるように、下呂も観光客の減少に悩んでいる。平成4年度の225万人から直近の14年度には185万人に落ち込み、歯止めがかかっていない。

 原因は明確で、これまでの団体旅行・慰安旅行から、今日では個人旅行(友達・家族)・観光旅行へと大きく転換しているからだ。前者の場合、夕方着いて、温泉に入り、宴会で騒いで、その日は終わり、翌朝出発するというスタイルなので、宿泊施設内完結型で十分であった。しかし、今日では半強制的な慰安旅行(社員旅行)は従業員に嫌われ、中止する企業が多い。かわって今日の旅ブームは友達や家族での旅行であり、まさにゆったりと「地域の光を観る」ために訪れる。ところが地域の「光」となる資源を磨いてこなかったところは、訪れても観るべきものがないので、そっぽを向かれることになる。宿泊施設の外が集客にとって重要となる。その地域が育んできた独自の町並み景観、郷土料理、伝統文化、そして地域のもてなしが重要となる。湯布院はその成功例かもしれない。

 下呂温泉はなまじっか景気がよかった時代を通過したために、風情のある木造の温泉旅館は姿を消し、多くはコンクリート造の温泉ホテルへと変身した。好景気を通過していない鄙びた温泉地は建て替えも進められなかったが、かえって旧き良き時代の景観を留められたので、今日注目される事例も多い。周回遅れで先頭(銭湯にも掛けている)を走っているようなものだろう。下呂も個人旅行に対応して、新たな景観形成を含め、地域資源の掘り起こしと再編が課題となっている。

 温泉好きな私としては、下呂を訪れたからには温泉に入らない手はない。しかし、日帰りである。下呂温泉では旅館協同組合が「湯めぐり手形」を1,200円で発行し、6ヶ月間で3ヶ所の湯場めぐりができるメニューを持っている。これなら日帰り客でも温泉三昧できるわけだ。その日一日で3ヶ所入ろうと意気込んで、さっそく水明館で入湯した。手ぬぐいは貸与され、バスタオルは備え付けてある。「夕方から温泉に入れるなんて、極楽極楽」と唱えながら。一つ入湯すると、やはり疲れてしまい、すぐさま第二の温泉に入る気がしない。そこで休憩がてら夕食を取り、身体を休めて次に行こうとしたが、乗車する電車時間まで15分しかなくなってしまった。あわてて、第二の温泉旅館に飛び込んで風呂場に行ったが、手ぬぐいもバスタオルも置いていない。聞いてみると、貸し出しはしていないとのこと。確かに手形にも「タオル等の提供はありませんのでご用意下さい」と書いてある。といってタオルを買う時間もない。頭に来たが、「ままよ」といって温泉に入り、すぐさま出てきた。何で体を拭けばよいやら、洗面台を見るとティッシュが置いてある。擦るとティッシュが破けて、身体の至る所に紙片がくっ付いてしまう。ティッシュ破片を身体に付いたまま家に帰ると何を言われるかわからない。身体を叩くようにして、水気をふき取っていった。そこは生活の知恵を働かせた。

 変な方向に話がいってしまった。要は入湯が宿泊客対応のサービスであって、手形客対応のサービスになっていない。日帰り客も客であり、明日の宿泊客になりうる。これではファンをつくるどころか、逃がしてしまわないだろうか。きめ細かなサービス(もてなし)、換言すればサービスの質のレベルを上げていかなくてはならない。

 しかし、「極楽極楽」の一日であった。これからは温泉地の仕事を積極的に取ってこよう。


紅葉した温泉寺から街を見下ろす。(下呂温泉)

風情ある木造の湯之島館(下呂温泉)

(2004.11.28/井澤知旦)