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空からの民俗学/宮本常一著

岩波書店/1998.11.7

 全日空の飛行機に乗ると、前の座席の背中のポケットに『翼の王国』という雑誌が入っている。日本全国の旨い物情報などがオールカラーで載っていて、目的地に着くまでの間にパラパラとめくると時間潰しにちょうどよいのであるが、その雑誌に昭和五十四年から五十五年にかけて連載されたのが『空からの民俗学』である。北海道の根釧原野から沖縄の久米島に至る十二の地域を、人の姿が確認できるかできないかという距離まで航空機で近づいて上空から撮影した写真を著者が見て、そこに映っている田畑の形、植わっている作物の色、住宅の屋根の材料などから集落の成り立ちや変遷、田畑を開墾する時に使った道具などについて推察し、そこに暮らしてきた人々やその土地を出ていかなければならかった人々の苦労や幸せについて思いをめぐらすという内容だ。

 著者・宮本は「旅の巨人」という別名を持ち、日本全国を歩き回って村落調査を行った民俗学者である。昭和五十六年に七十四歳で病気で亡くなっているので、『翼の王国』の連載は最晩年の仕事ということになる。永い研究生活で培ってきた知識と観察眼を使い、とてもわかりやすい文章で一枚一枚の写真を読み解いている。残念なのは、文庫本というスタイルであるために、写真が全てモノクロになってしまっていることだ。文中に色についての記述が多いので、そこは想像して読むしかない。しかし、そのマイナスを差し引いても読むに充分値する本だ。

(2001.11.13/伊藤 彩子)