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「新・都市論TOKYO」/隈研吾・清野由美 著

集英社/2008年1月22日発行

 汐留、丸の内、六本木などの東京のいくつかの都市で大規模再開発が行われ、高層ビルが林立し、まちの風景は大きく変わっている。東京を訪れる用事にあわせて年に数回立ち寄る程度だが、その規模や変化の大きさには毎回圧倒される。バブルが崩壊し、完全に景気が回復しているわけではないのに複数の大規模再開発が成り立つのか不思議に感じていた。疑問に思う一方、大規模であっても冒険的な取り組みであっても、首都圏の過剰な人口密度によって事業は成立すると単純に考えていた。
 この本は、汐留・丸の内・六本木ヒルズ・代官山・町田という5都市について有名建築家である隈氏によるまちのIntroduction(紹介)、そして隈氏とジャーナリストである清野氏がまちを歩きながら行うdialogue(対話)を主に構成されている。超高層ビルのデザインや都市景観という表面的な内容よりも、その背後にある経済、歴史、開発主体の思想、ゼネコンや設計会社と建築家との関係などの都市を取り巻く様々な実情が詳しく書かれている。
 現代の東京や再開発の背景にはそれぞれに異なる開発経緯だけでなく、グローバル経済によって肥大化した金融資本が存在する。また、大規模で大胆な計画であるようにみえても、実はリスク管理が最優先で行われ、その弊害も表れてきている。隈氏はリスク管理の手法ばかりが洗練されていることを東京の再開発の共通の問題と考え、そのひとつとして汐留を例にあげている。汐留では、不況下で広大な土地の開発リスクを負える企業が不在で、都市計画的な調整が行われずに土地が分割分譲され、形も向きもバラバラな超高層ビル群ができてしまった。また、ブランド建築家のラフスケッチをゼネコンや設計会社がリライトする定番化した手法により、デザインが陳腐・反復されてしまい、きれいで華やかで安全ではあるが魅力に欠けた都市になってしまっている。
 「極論すれば、どんな都市計画もプロセスにすぎない」、「汐留はいわば、壮大なお勉強の場」、「失敗がなければ都市は無味乾燥」、失敗や予測不能な事態を嫌がっていてはいけないという著者の考えには共感を覚えた。難解な専門用語は多いものの、注記による補足や実際にまちで起きている事柄、過去の経緯が丁寧に書かれており、現在の東京を知るための一冊としてお勧めしたい。

(2008.2.4/山崎崇)