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「森林飽和 国土の変貌を考える」/太田猛彦 著

NHK出版/2012年7月30日発行

 日本の森林が飽和してると言われ、ほとんどの人が違和感を覚えるのではないだろうか。私もその一人で、理由が知りたくて本著を手に取った。
 東海道五十三次をみると山には木はまばらで、明治時代の集落と里山を写した写真にはマツの木が1本しかない。建築用資材、薪炭材、肥料用の落ち葉、飼料用の下草など、資源のほとんどは森林資源であり、生活の場に近い里山の木を使うため、江戸時代から昭和前期までの森林・里山は現在よりはるかに貧弱で、発展途上国の荒廃した山地のようなものだったそうだ。明治時代に山地保全事業によって回復を目指すまで、森林は300年以上劣化・荒廃し続け、それによって土砂災害、洪水氾濫災害、飛砂害に悩ませ続けられた。
 その後の森林の急速な回復は、山地保全事業が決定的な要因ではなく、ひとつは化石燃料や化学合成肥料の登場によって薪炭林としての里山や堆肥採取のための農用林が不要になり、草地に樹木が成長するようになったこと。もう一つは、安価な外国産木材の輸入自由化により、国内林業が衰退したことが要因である。
 このような森林回復は実際には量的なものにしか過ぎず、山に木がたくさんある「森林飽和」という急速な変化による副作用として、深層崩壊や海岸浸食という新たな環境問題が発生している。自然の破壊ではなく飽和によっても、環境問題や災害が発生することは発想の大きな転換であり、ぜひ一読いただきたい。
(2013.5.30/山崎 崇)