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なつかしい川、ふるさとの流れ/野田知佑著

新潮社/
 様々な場面において、人は知らず知らずのうちに己の持つ原風景や原体験を「未来永劫残したいもの」として心の中に思い浮かべてしまうものではないだろうか?

 たとえば、「まちづくり」を考える場合でも、土地利用にしろ景観形成にしろ、そこに住む人たちがもつ原風景や原体験が、まちの将来を左右する重要な要素にもなり得るのだ。

 この本は、日本はもちろん世界中の川をカヌーで旅し、川を心から愛する著者が、日常の川遊びや旅先での体験を綴ったエッセイである。きれいな川が目の前に流れる田舎に住み、日々釣りをし、友人が来ては川に潜り、近所の子どもを誘っては川遊びやカヌーをする。そんな自然派都会人なら誰もがあこがれるエピソードが満載されている。

 また一方では、護岸だ、ダムだといって人間の手によって、ありとあらゆる川が日に日にその姿形を変えさせられ、汚くなっていくことや、川で遊ぶなという看板をよく目にする、という日本の川の現状を嘆くエピソードもある。わが国唯一の清流と言われているあの四万十川でさえ、20年、30年前を知る著者からみれば、美しさはこんなものではなかったということは驚きである。

 この本からは、著者が将来に残し、伝えていきたい日本の川の原風景・原体験やそれらを守っていく大切さがひしひしと伝わってくる。私は、読み進めるにつれ、子どものころに見た川の風景や全身ずぶ濡れになって魚とりに興じた懐かしい体験がじわじわと思い出され、体がうずうずしてきてしまった。息子がもう少し大きくなったら、川に行って一緒に思い切り遊ぶぞ、と目論んでいる。

 時代とともに変わって行くものがある一方で、未来永劫変わらなくてもいいものもきっとあるはずだ。20年、30年というあっという間に環境が激変した日本。日々変わりゆく川やまちを見ながら、今の日本の子どもたちは一体どういう原風景、原体験をもつのだろうか。そしてどういう将来を描いていくのだろうか。
(2005.9.2/櫻井高志)