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水と緑と土 伝統を捨てた社会の行方(改版)/富山和子著

中公新書/1974年1月発行

  この本の初版は約30年前、しかし、本書が発するメッセージは今なお新鮮で、現在も版を重ねている。
  本書では、緑を失い、水を失い、土壌の生産力を失った文明・都市は亡びるということを歴史と伝統から立証するとともに、明治以降の現代の日本の都市が水と緑と土のいずれをも拒絶、断絶することで形成されてきた過程を示し、現代都市がいかに脆い基盤の上に立脚しているか、その危うさに警告を発している。
 かつて日本人は自然を愛し自然に対応して生きる民族だった。とりわけ急峻な地形の日本において、川は脅威の対象であったが、同時に土壌を豊かにし、恵みを運んでくる存在でもあり、川とうまく付き合う術を伝統的に身につけて生きてきた。しかし、明治以降の富国強兵・殖産興業、その後の近代化の中で、川を堤防とダムによって施設化して切り離し、次いで川の水を育んできた山や森の緑、農地を破壊して切り離してきた。そうして自然と断絶した土地利用の上で都市の集中拡大を可能にせしめた。しかし、反面、汚染問題や緑の問題、災害、交通問題など多くの問題が生まれ、都市を覆い始めたのだ。現在の都市問題の要因はすべて水との関係で語ることができるという。
 自然環境への意識も高まり、取り組みも日々進んではいるものの、日本人は、今一度、現代都市と「水と緑と土」との関係を見直し、長い歴史と伝統という脈絡の中で捉えていく必要があるのだろう。

 (2013.6.11/櫻井高志)