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巨大災害のリスク・コミュニケーション/矢守克也著
ミネルヴァ書房/2013年9月25日発行

 最近、減災に関する検討に参加する機会が継続的にあり、参考図書を探していた時にタイトルが気になって手に取った著書である。
 この著書のあとがきに「災害情報が充実してきたがゆえに、帰って災害情報によって解消しようとしていた問題(例えば早期の自主的避難の実現)の解決が遅れるという「パラドックス」(逆説)に悩まされてきた」と書かれているように、様々な逆説が整理された著書となっている。例えば、災害情報が質量ともに豊富になったことが、かえって避難指示などの「情報待ち」「指示待ち」の状態にあり、2003年の十勝沖地震や2004年紀伊半島南東沖地震などの事例で津波からの避難を遅らせたことが指摘されている。また、防災、減災に関するマニュアルやマップづくりを地域で行うことで、参加を促すと当時に、それ以上に不参加も促し「格差対策が格差を生む」という逆説も述べられている。
 災害情報の事例は、東日本大震災で話題になった「津波てんでんこ」、2008年に
起きた神戸市都賀川水害の事例を紹介している。「津波てんでんこ」では、津波という緊急時に自分の命を守る知恵と同時に、生き残った人が亡くなった人に対し自責の念に捉われないようにする意味もあるという。神戸市都賀川では、急な増水により河川敷にいた人達の命を奪った災害であるが、これは要するに、川の中の「自然」と堤防の外の「社会」とが隔離され、普段から「自然」の中にいる意識を持たなくなったとの指摘である。
 防災、減災対策を進める程、さらに生まれてくる矛盾を整理された著書で、ここで一部紹介した逆説的なとも頭の片隅におきながら、それでも地域での意識啓発には防災マップづくりやマニュアルづくりを契機に、コミュニケーションを増やしていくべきだろうと、改めて考えさせられた。

(2015.3.6/浅野 健)