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 生き返るマンション死ぬマンション−あなたのマンションは資産かお荷物か−
萩原博子 著/文藝春秋/2016年12月20日

 近年、首都圏を中心にマンション建設が進むが、あわせて中古マンション大量供給時代へ突入し、ストックは623万戸、うち築年数30年以上は162万戸を数える(本書より)。近い将来これらが建替え時期を迎えるが、そうしたマンションの今と今後が本書のテーマである。
 本書のタイトルからでも、マンションの行く末が気になるが、本書前半では問題を抱えるマンションとその所有者の今が紹介されている。マンションに明るい未来や夢を託し購入した人も多い中、近年は不安になる話題が続いた。設計士による耐震偽装問題や大量供給によるマンションバブル 、リーマンショックによるローン破綻、更には安心と思われた大手販売会社物件での偽装データ基礎工事により傾くマンション等だ。 また、そうした諸問題とともに、築年数の経過とあわせて住民の高齢化による二重の老いも話題になりつつあり、将来的な法整備も含めその対策が求められている。何かと問題を抱えながらもなお建設され続けるマンションだが、将来に亘り資産価値を高め維持していくための一案として、マンション管理に経済的視点をもち所有者主導の管理(自主管理)をあげている。自主管理は、他人や業者に任せず自らの手で資産を守る手法として理想的な取組だが、現実的に自主管理が機能している組合がどれほどあるのか未知数だ。その中でも住民の高い意識のもとで自主管理に取組んだ管理組合が、取組み内容を交え紹介されている。マンションへの価値観は様々でも、管理への意識は共通認識をもち、主体的な関わりが求められる。それにより、住まいとしての魅力や資産価値向上につながることが示されている。
 マンションを生かすも殺すも居住者の意識と行動力が大きいといえるが、最近ではマンション住民間の挨拶禁止のルール化や国土交通省が示す最新の標準管理規約では管理組合業務から「地域コミュニティにも配慮した居住者間のコミュニティ形成」が削除されるなど、適切なマンション管理には欠かせないと思われてきた住民同士のコミュニケイションについて不安を感じる動きもある。
 本書に登場したある管理組合理事長は、50年前には人々の暮らしがあったが今は廃虚となった長崎の軍艦島を例にあげ、「自分達のマンションが50年後も健在し、愛されているよう今から布石をうたなければならない」と語っている。将来、未来版軍艦島が現れていないことを願う。

(2017.1.21/村井亮治)