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ヒア・バイ・ライト(子どもの意見を聴く)の理念と実践/奥田陸子 編著・監修

萌文社/2009年3月15日発行

 ヒア・バイ・ライト(Hear by Right)とは、英国若者協会(NYA)と地方自治体協議会(LGA)の共同制作で2001年に開発され、子ども・若者の社会参画を具体的に進める上でイギリスで活用されている手法である。本書は、第1部「ヒア・バイ・ライトおよび関連文書の紹介」、第2部「ヒア・バイ・ライトの背景」の2部構成になっている。
  第1部では、子ども・若者の参画を継続的に行うために、「ヒア・バイ・ライト」の7つのスタンダードの考え方「共通の価値観」「戦略」「仕組み」「体制」「スタッフ」「技術と知識」「リーダーシップの取り方」を示している。この7つのスタンダードを、さらに「参画に向けて動き出した段階」「参画が実現している段階」「さらなる取組みの段階」という3つの段階に分け、子ども・若者の参画が形式的なものにならず、組織の中に組み込まれていくことを目指している。「ヒア・バイ・ライト」を実際に進めるために、素材集、自己評価をのためのマッピング&プランニングツール、参画による変化を記録するツール、ヒア・バイ・ライトが利用された事例も紹介している。
  第2部では、18世紀後半の産業革命期に子どもを安い労働力として見られていた時代から、1870年の義務教育法、1908年の英国児童法の制定を経て、国連の子どもの権利条約を1992年に批准し、子ども・若者の参画が注目にされるようになるまでのイギリスの長い歴史を紹介している。さらに現代の政策として、2004年のECM(子ども達のための行動計画)を紹介し、イギリスのECMでは子どもの支援、子どもの幸せと育ちに焦点を合わせているのに対し、日本の次世代育成対策では子どもを育成する親に視点が向けられていると、日英の違いを解説している。
  最後は、有識者の座談会の内容が紹介され、その中で司会を務めた著者が、イギリスの「ヒア・バイ・ライト」の目的が「子どもの参画」そのものにあることを理解するのに随分時間をかかったという印象的な言葉を残している。子どもの声に耳を傾けて社会に取り入れるような参画のレベルにまで持って行くにはエネルギーも時間もかかるし、さらに、子ども・若者が7つのスタンダードを身につけるには、それを支える大人の方にも「技術と知識」が求められることを気づかされる。
  「子どもの参加・参画」を考える上で、おすすめの一冊である。

(2012.9.10/浅野健)