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フライブルクのまちづくり/村上敦著
   学芸出版社/平成22年2月10日発行

 フライブルクはドイツ南西部に位置する人口21万人の小都市である。ゴミ処理・リサイクル政策、自然エネルギー政策、公共交通・自転車交通政策などの環境政策により世界的に名が知られている。近年は、環境先進都市として、自治体職員や研究者が世界中からこぞって視察に行く地であるが、そのなかでもヴォーバンという近年最も注目されている住宅地がある。本書は、「交通」「緑」「エネルギー」「住民参加」を柱に、フライブルクと『ヴォーバン住宅地』における取組と成果について述べられている。
  フライブルクは環境先進都市と呼ばれているが、『ヴォーバン住宅地』はソーシャル・エコロジー住宅地と呼ばれている。ソーシャル・エコロジーは、住民が考えた住宅地のコンセプトから生まれた言葉で、エコロジカル、社会福祉的な、エコノミー、価値(クオリティ:質やエステテーク:美)などがキーワードとなっている。『ヴォーバン住宅地』では、学びながら進化する都市計画やマイカーを減らして自転車と徒歩交通を推進するカーフリー構想などが謳われ、省エネ住宅(パッシブ・ソーラー住宅)、コージェネと地域暖房によるエネルギーコンセプトなどの新しい取組みが行われているが、協同組合を組織して住民主導で取組まれている点が近年フライブルクの中でも最も注目されている要因とも言える。筆者曰く、ドイツの協同組合は日本のNPOと同等の感覚だが、日本よりも市民活動に十分溶け込み、自己実現の場を提供することに貢献しており、日本とは規模や迫力が違う、と。
 日本では、特に環境のように幅広い分野では、どうしても行政主導で進んでいくという現状があり、日本でもヴォーバンと同様の住民主導で取組みをと言ってもなかなか難しいが、例えば、区やヴォーバンのような住宅地といった単位ごとであれば何か可能性を見いだせるかもしれない。住民主導が全てではないと思うが、本書を読んでいると、住民主導での取組みを限りなく継続し続けていくことが循環型で持続可能なまちづくりに繋がっていくと感じる。
  本書は、ヴォーバン住宅地が持続可能なまちづくりに向けてこれまでどのように取り組まれてきたかを歴史的に紐解きながら丁寧に紹介されており、長年フライブルクに在住している筆者ならではの視点も盛り込まれ、非常に読み応えのある1冊であった。

(2011.3.28/喜田祥子)