対談 「ナゴヤDA.GA.NE」

原田 さとみ さん と 井澤 知旦

対談
井澤 原田さんは学生時代にモデル界に入り、そのユニークなキャラクターでタレントにも仲間入り。結婚後は、フランス・パリに語学留学し、パリでの暮らしを体験。帰国後はタレント活動以外に針金アートで個展(七年前セントラルパークギャラリーにて)をされたりと表現の幅を広げ、4年前にはついに自分のお店「ペネロープ・パリ・ペティヨン」を持つことに。場所は栄ミナミの街の中にひっそりと残る昔ながらの路地。そして、その場を活用して「ファッションショー」や「音楽会」、「オープンカフェ」などのイベントの開催など、精力的に活動しておられます。今はそれと並行して子育てのラジオ番組や育児雑誌などのお仕事もされています。
 最近はどのような活動に力を入れていますか?本来の意味のタレント(才能)を生かして。

原田 今の私にとっては子育てが一番大事な仕事だと思っているので3歳の息子の子育て中心の生活をしています。ですけど経営者としてお店のことは常に考えています。タレント的な活動としてはお母さんになった私が今自信をもってできることは「子育て」に関することなので、お母さんの立場でできることをさせてもらっています。愛知県の少子化対策のラジオ番組「子育てほっと情報局」とか四月から創刊される「ハッピー・ママ」という育児雑誌の連載など。

井澤 この間、インターネットでラジオ番組を聴かせてもらいましたよ。

原田 聴いていただけたのですか、ありがとうございます。インターネットでいつでも聴けるのは便利ですよね。

 ラジオ番組「子育てほっと情報局」の放送は昨年12月21日で終了してしまいましたが、http://www.aichi-kosodate.netで過去の放送が聴けます。是非聴いてみてください。2004年3月まで公開予定。)

今の私にはパリよりナゴヤ

原田さとみさん
井澤 原田さんは名古屋(厳密に言えば大府)生まれの名古屋育ち、おそらくこのままいけば、名古屋で老後を迎えることになるでしょう。
 名古屋(名古屋市に限定せず、海あり山あり、産業ありの名古屋圏の捉え方で)へのこだわりはありますか?特に生活場面(ケ)のひとつである子育てに関して名古屋はいかがですか?

原田 私にとって名古屋は慣れたまちなのでとても過ごしやすいですよ。子育てに関しては愛知県のラジオ番組で育児支援に携わる人達に接して色々考える良い機会になりました。子どもができても仕事をしたいという女性が増え、県は子育てしやすい環境づくりに力を注いでいます。0歳からの保育園や託児所の充実だったり、産休後の仕事復帰がしやすい環境づくりだったり・・・。だけど私は子どもが3歳になるまでは保育園などには預けたりせずにお母さんが一緒にいてあげることが大事なことだと思っています。出来ることなら、子どもが幼稚園に入るぐらいまでの3年間はしっかり育児休業を使って子育てに専念できるような環境を名古屋で実現して欲しいです。子どもを健全に育てることって世の中にとって責任重大で大切な大仕事ですもんね。

(育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律〔平成三年法律第七十六号〕の改正により、勤務時間等の短縮等の措置義務の対象になる子の年齢は一歳から三歳未満に引き上げられたが、育児休業制度の対象義務は一歳未満に限られている。)

井澤 普段お子さんを連れて行くところってどんなところですか?

原田 子どもが楽しめる所ならどこにでも連れて行きますね。近所の公園はもちろん、名古屋市内のいろんな公園に連れて行きますよ。それに美術館やカフェにも連れて行きます。子どもが騒ぐから連れて行かないという人もいますが、小さい頃からそういう環境に慣れていれば大丈夫。

井澤 その場に合わせてしつけるということですね。この場は静かにしている必要があるということや、別の場では騒いでも大丈夫だということを子ども自身が理解することは大事ですよね。お子さんをパリに連れて行ったことがおありですか?

原田 はい、つい先日行ってきました。思い入れのある大好きなパリの街に自分の子どもを連れてきているなんて感動的でした。でもお母さんになった私の感じ方は少々変化していました。何が何でも大好きだったパリなんですけど、やはり「子どもにとって居心地が良いかどうか」というものさしで見てしまうので、子どもと一緒の場合は海や太陽や自然を体いっぱいで感じられる心地の良い街の方が魅力がありますね。ですからパリは刺激的ではあるけれど、今の私には必要のない街でした。(でもまたすぐ行きたくなると思いますけど・・・)

「場のもつ力」が大切

井澤
井澤 ブティック経営やタレント活動をする営業場面(ハレ)としての名古屋や、創作的刺激や情報発信という意味での名古屋はどうでしょうか?

原田 名古屋ですか?もっとこれからおもしろくなると思いますよ。若い人はできることなら一度海外に出て、いろんなことを吸収して戻って来て名古屋で何かを表現して欲しいですね。きっとこれから名古屋にももっと個性あふれた人々が増えると思いますよ。

井澤 原田さんのように、名古屋から出てセンスを磨いた人が戻ってくると徐々におしゃれなまちに変わると思います。例えば、センスの良い人が集まるとセンスの良い店が流行って、センスの良い店が増えてまちが変わっていく。

原田 私の店は「ファッションを売る」ことよりも「ライフスタイルを含めた新しいファッションの提案」ができるような存在でいたいんですよ。ですからファッションという枠を超えた芸術性の高い表現を常にしたいと思っています。お店の中での小さなギャラリーイベントや、店の前の通りを使ったファッションショーや音楽会など私たちのやっていることは小さなことかも知れませんが、若者たちの意識を変える何かのお手伝いになればと思っています。小さな空間ではありますが、コツコツと、長く質の確かなものを発信することを考えています。

井澤 必ずしも創作的な刺激を名古屋が自前で用意する必要はなく、海外に行って創作活動をすることを考えることも大事かもしれませんね。

原田 芸術文化センターや名古屋市美術館、豊田市美術館、岡崎市美術館など、とても良い環境でアートを鑑賞できる素敵な美術館も多くあります。しかし、現地に行って観るのとはまた感動が違います。その場に行って、その場のもつ力を感じることも大事だと思います。

井澤 場のもつ力ですか、名古屋をこれから良くしていくには名古屋という場のもつ力が何であるのか問わなければいけませんね。

原田 名古屋にしかないものに誇りを持ちたいですね。名古屋に来たら必ずここに寄るというようなものが欲しいですね。

非日常(ハレ)が大事

井澤 名古屋の魅力を名古屋市だけで考えるのではなく、大垣は水の都、関は刃物、豊田は自動車、岡崎は徳川家発祥の地、半田は味噌醤油、常滑や瀬戸、美濃、四日市はやきもの、などと広がりをもって考えると色々な展開ができると思っています。そのような名古屋を囲む都市に行かれたことはありますか?

原田 はい、以前ラジオ番組の取材で作手村など愛知県内の様々なところに行って地元のアーティストやこだわりを持った人にインタビューをしたことがあり、地元からがんばって発信している人々にとても刺激を受けましたね。

井澤 豊田市には世界ブランドの自動車メーカーがありますが、名古屋はまだまだTOKYOやKYOTOのように世界ブランドにはなっていませんよね。

原田 フランスでの学校の授業で自分のまちの紹介をする時にいつも表現に困りました。日本の真ん中でお城があってとしか説明できないんですよね。ショックだったのは、「名古屋は日本で3番目の都市です」と説明した時に、他の人に「3番目は横浜です」と言われちゃったことですね。

井澤 都市の単位で見ると確かに人口では名古屋市は横浜市より少ないので4番目の都市になりますね。都市圏としてみると横浜は東京圏の一部ですが、名古屋は名古屋圏の中心地という強みはあります。都市圏だと名古屋圏は3番目ですね。

原田 先日、ニースから来たフランス人の知人が名古屋はニースと似ていて(都会にはない過ごしやすさ、暑さ)良いまちだと言ってくれました。憧れのニースに住んでいる人がそんなことを言ってくれるなんてびっくりしました。ニースの人から見るとヨーロッパの街はみんな同じような古い建物が並んでいるけど、日本は一戸一戸が独立していてみんな違う形をしているところが興味深いらしいんです。

井澤 普段生活しているのは日常(ケ)の空間なので、そこから出るときに求めるのは非日常(ハレ)の空間なのでしょうね。ヨーロッパの人にとってはヨーロッパの街のコピーである横浜の街よりも東京の密集した下町の方が面白いと感じるそうです。

原田 ヨーロッパのオープンカフェで気持ち良さを感じるのも私たち日本人にとって非日常なことなので特別に感じるんでしょうね。

井澤 ヨーロッパではオープンカフェで過ごす時間が日常になっています。名古屋にもオープンカフェを広げていきたいと思っています。

名古屋城の見えるオープンカフェ

原田 井澤さんはカフェに詳しいんですよね。井澤さんのお書きになったオープンカフェに関するお話、とても興味深く拝見させていただきました。ヨーロッパの各国にはそれぞれのカフェ文化があって楽しいですよね。

井澤 店内で飲食するよりオープンカフェで飲食した時の料金が高いのはなぜか聞いてみたら、オープンカフェの方が厨房から運ぶ距離が長いから高いそうです。

原田 料金が高くてもオープンカフェの方が良いと思うのはなぜなんでしょうね。

井澤 行き交う人や町並みを見ると落ち着くからではないでしょうか。日本は看板しか見えないし、歩道も狭いので場所は限定されてしまいますね。久屋大通は公園もあって適していると思います。

原田 空気感も影響しているのでしょうね。ヨーロッパのカラッとした青空の下で飲むお茶は気持ちが良いですよね。どんより曇った空の下のお茶もまたロマンチックでいいんですけど。

井澤 屋外でお茶を飲むこと自体はヨーロッパ特有のものではなく、日本にも昔は峠の茶屋や花見文化があったように、屋外で飲食する文化がありました。屋外生活の良さは普通、人の流れや町並み、気候などトータルで評価されます。現代の日本とは違いヨーロッパはそのようなまちになっているのだと思います。

原田 外に愛でるものがあるから外でお茶をする楽しみがあるってわけですね。名古屋だとどこかな?名古屋城とか?

井澤 それには、名古屋城を復元しないといけないですね。名古屋城は昭和20年頃まで残っていたため、写真も部材の寸法も残っていて大規模なお城としては完全な復元が唯一可能なんですよ。藩主が実際に生活する場所であった本丸御殿の方が贅沢で、本丸御殿の復元は世界にPRできるものになると思います。

原田 パリのノートルダム寺院やエッフェル塔のようにその都市を代表するものが今も生きているかどうかが都市の魅力を左右しますね。

井澤 1610年に築城が開始されたので、2010年に築城400年を迎えます。今から100年あるいは200年かけて天守閣・本丸御殿から三の丸まで復元しても良いのではないかと思います。バルセロナのサグラダファミリア教会は100年以上の長い年月をかけながらいまだに完成していませんよね。

原田 これから時間をかけて復元していくのも面白いですね。以前、主税町の歴史あるお屋敷公開の企画に参加したことがありますよ。若い建築家の方々で企画され、がんばっていらっしゃいました。

井澤 たぶん川上貞奴邸ですね。今は移築の工事をしていると思います。メンテナンスにかかる費用の大きさや相続税の問題もあって、あの辺りの白壁地区もマンションが多く建ってしまいましたね。

原田 古いものを残すって大変そうですけど、日本ならではの町並みが残っていて欲しいですね。今日は井澤さんとお話できてとても楽しく勉強になりました。「まちづくり」って私のような一個人ではなかなか動かすことのできないことなので、井澤さんのように名古屋のまちを愛し変えていく力のある人は尊敬します。がんばってください。

井澤 本日はありがとうございました。今度是非、まちづくりにもお力を貸してくださいね。

 

原田さん
原田さとみ(はらだ さとみ)

愛知県大府市生まれ。
愛知県立横須賀高校卒業。
椙山女学園短期大学在学中にモデルデビュー。1年間のOL生活を経験した後、本格的にモデルの仕事を始める。嘉門達夫と共演したテレビ番組「ラジオDEゴメン」により、タレントとしてもデビュー。10年前の1994年に大ヒットした「DA.YO.NE」の名古屋弁バージョン「DA.GA.NE」を歌っていたこともある。
現在は、名古屋市北区に在住、サーフィン好きな旦那さんと笑顔がそっくりなお子さんと温かい家庭を築いています。

 

ペネロープ店内 ペネロープの通り
penelope paris petillante
ペネロープ・パリ・ペティヨン

 栄ミナミのレトロな路地にあるセレクトショップ。パリのデザイナーによるオリジナルと名古屋のデザイナーによるオリジナルの2つのオリジナルブランドをプロデュース。他にヨーロッパで直接セレクトしてくる服・靴・バッグ・アクセサリーなど感性の高い品揃え。
TEL・FAX 052-238-5502
名古屋市中区栄3-28-117 水曜定休

レトロな路地は居住者の愛着によって残されています。歴史ある建物同様に路地も残して欲しいものです。

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