スペーシアレポート

マック・カフェ・バー  海外レポート三題

井澤知旦

 職業上、海外に出かけ視察したり、関係者にヒアリングしたりする機会が多い。機会は多いものの、もう二度と訪れることはないと言う気持ちになって、ついつい日本人的強行軍を組んでしまう。ゆったりとした時間の流れを感じるという町の生活感覚を追体験することは少ない。
高齢化が日本よりも進んでいるドイツのある町中をジョギングしていると、「走ってはいけない」と年寄りにたしなめられたという話を本で読んだ。スポーツするならスポーツ施設でやれという訳である。こういう体験も高齢社会の生活体験になるのであろう。
当然、仕事上で出かける時は目的を達成するために出かけるが、とはいっても相手のあることなので、土日曜日は町を観察する時間に充てることになる。これまで定点観測ならず、定対象観察を行ってきた。それは、世界中のどの都市にもあり、生活感が溢れている対象を選んでいる。すなわち、マクドナルド(麦当A)とオープンカフェ(屋外喫茶)とデパート(百貨店)である。最後のデパートは、その都市(国)の物価水準や品数の豊富さ、流行など、生活の豊かさを見る上で恰好の場所である。


1.マクドナルドは都市景観のリトマス紙

 マクドナルドに興味を持った契機は、都市によって大きく店舗デザイン(特に看板の色使い)が異なることであった。日本では都心であれ、郊外であれ、マクドナルドと言えば赤色の地の上に黄色のロゴ「m」と「マクドナルド」「ハンバーガー」の白文字が二段に書かれ、どこに行っても同じである。世界で119ヶ国26,000店、日本だけでも8,000店あり、世界のどこに行っても見かけることができる数である。ということは、世界共通の物差しになりうる。そこで何を測るかは、人それぞれの興味によるが、私は建築系の出身でもあり、都市景観に興味を持った(食文化比較も面白いが、ハンバーガーがあまり得手でないため断念)。マクドナルドの店舗景観も都市文化である。そこで、これまでの成果を国別都市別にまとめて整理して、インターネットで公表した。「世界のマクドナルド」である。
 写真を集め、欧州諸国を比較しただけでも傾向はみられる。
●欧州諸都市の都心部では、歴史的建造物が多いこともあって、またモール化されていることもあって(歩く速度で店舗を探す)、マクドナルド特有の赤色の地があまり使用されていない。
●新築と異なり、既存建物を再利用する場合には、その建物の質がマクドナルド店舗の質を規定する(ラバダブ3号参照/ブダペストの世界一美しいマクドナルド)
●ただし、北欧では冬の曇天日の多さからか視覚的活性をはかるため、むしろ赤色を多用する傾向にある。
●このように、日本で見られる定番のマクドナルドは多くなく、歴史的条件(例:歴史的建造物)、社会的条件(例:景観規制)、自然的条件(例:気候)により規定されるが、それはそこに住む住民の景観意識の表れ、すなわちリトマス紙と言える。


イタリア ミラノ ガレリアのマクドナルド

2.オープンカフェのあるライフスタイル

 第二の定対象観察はオープンカフェである。屋外の公共空間の使い方は、その量以上に、生活の質を左右すると考えた。
 パリにはオープンカフェが10万ヶ所以上ある。特にシャンゼリゼ通りのそれは、景観的にコントロールされ、パリの顔になっている。そしてきちっと使用料を徴収し、市財政に貢献している。北欧にもこのスタイルが伝播し、自動車で溢れ返った都心を人々の生活空間に取り戻すためモール化し、そこにオープンカフェを設置した。そこには哲学がある。歩道は歩くためだけでなく、憩い、語らい、自己表現したりする、多目的な空間という訳である。アンプを使わず3人以下であれば、無許可で大道芸や演奏を行うこともできるのである(コペンハーゲンの例)。公共空間が生活に取り込まれているオープンカフェの写真を撮りだめしてきたが、それを国別都市別に整理して、インターネットでその一部を公表した。「世界のカフェテラス」である。
 この名古屋でも昨年10月に3日間のオープンカフェ実験を行ったが、歩道空間がいかに利用しづらいかを証明する実験となった。



コペンハーゲン都心部のカフェ

3.ハノーバーと万博

 本稿のタイトル「マック・カフェ・バー」の最後の「バー」はハノーバーである。これまでに万博をテーマに1992、1998〜2000年の計4回視察した。博覧会そのものの評価は「万博見聞記」(スペーシアHPに掲載)で述べたので省略する。
 ハノーバーは千年以上の歴史を持つ都市であり、第二次大戦で市街地の90%が破壊され、それを復元してきた経緯を持つ。ハノーバーはメッセで世界的に有名である。万博にむけて会場およびその周辺の様変わりは著しいが、一般市街地とくに都心部では中央駅が大改造された以外、さほど大きな変化はない。世界の国旗がモール化された中央駅通りの上に張られていた程度で、市全体では万博で浮かれることがない日常がそこにあった。万博開催の住民投票が51:49と僅差だったことも影響しているのかも知れない。
 万博開催によって、マイナス評価を含めて(入場者が目標の半分以下。一千億円の赤字など)、世界的にその都市の存在をPRしたこと、ドイツ=環境をアピールしたこと(展示内容はさほど面白くないが)、新幹線や市電などの鉄道インフラがメッセ会場(=万博会場)と結ばれ、アクセスが容易になったことなどが効果としてあげられる。
 変化するものと変化せぬもののせめぎ合いが都市の姿であろう。住民も変化を求めつつも、日常の安定も求めている。これが成熟社会の特徴であろうか。「祭りの後」に残るものはなにか、万博が終わってもハノーバーを見続けたいと思う。



ハノーバー都心部で唯一万博モードな場所
「世界のマクドナルド」
http://www.nagoyanet.ne.jp/mcdonald's

「世界のカフェテラス」
http://www.nagoyanet.ne.jp/cafe

「ハノーバー万博見聞記」
http://www.spacia.co.jp/Mati/sisatu/hannover.htm

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