この講演会ではまちづくりにおいて、建築家は今回の大震災から何を学ぶか、そして未来に何を提案できるかというのがテーマであった。伊東氏によると、被災地の復興計画というのは土木コンサルタントが作るのが普通だそうで、なかなか建築家にはお呼びがかからない。ならば自ら被災地に赴きボランティアで提案を始めたそうだ。最初は「おまえらに村の何が分かるのか。」と言われたこともあったが、伊東氏は住民たちと酒を酌み交わし、話をすることがとても好きだそうで、しだいに住民と親しくなったそうだ。
「みんなの家」というプロジェクトでは伊東氏の最新の建築作品からは想像もできない普通の集会所が建てられた。仮設村には集会施設がないので、これからみんなでまちづくりを進めていくには集まって話ができる場がまず必要と考えたからだ。大きさは3間×4間で木造平屋建ての普通の家である。このプロジェクトでは伊東氏がコミッショナーを務める熊本県の事業「くまもとアートポリス」が協力していただけることになり、木材や資金を援助してくれたそうだ。施設が完成してみると、伊東氏にとってこんなに喜ばれた建物は初めてだったそうだ。建築の原点とは使う人と作る人が心を一つにして作りあげていくものだと再認識したそうだ。
大きな震災が起きると、すべてがあって当たり前という現代の成熟社会では忘れてしまっていた価値観を再認識することが多い。今回、伊東氏の話を聞いて感じたことは、われわれがめざす社会とは、あって当たり前のものに感謝を忘れず、さらに堅固にするため誠実に努力をしていくことであろう。さらには使い手と作り手がお互い感謝し信頼し合う。そういう関係が築ければ、すばらしいものができるに違いない。 |