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デイサービスセンター松岡大正庵(旧松岡旅館)


「かつて遊郭や料理旅館で親しまれた建物がお年よりの憩いの場
として生まれ変わった」



名古屋市中村区日吉町13/ヒアリング日  2001.8.29

 大正元年に建てられ90年の歴史を持ち、市の都市景観重要建築物に指定されていた松岡旅館が、平成13年4月にディサービスセンターとしてオープンしました。 料亭としての経営が難しくなった時、ご主人はなんとかこの建物を活かした使い道はないだろうかと考えました。 その結果、今まで世話になったご近所のお年寄りのための憩いの施設をつくろうと思い当たったそうです。

 中村遊郭群をはじめ市内の歴史的な建物が次々とマンションに変わっていく中、保存活用についても多くの人が頭を悩ましていますが、そういった意味でも松岡旅館の試みは大変画期的なものです。

 バリアフリーは建物のハード面だけでなく、その建物や、その地域の「居心地の良さ」について語られるようになってきました。昔からある建物、地域の風景に溶け込んだ建物を利用した施設は、お年寄りにとってとても安心感のあるものです。

 松岡大正庵は”古い建築だからこそ、新しい建築よりも価値をもつもの”として活用されています。時を経た建物の持つ「やさしさ」、そして、ご主人の「もてなし」の考え方など、これからの「人にやさしい街づくり」の大きなキーワードであると考えます。

 旅館業であったご主人は、ご自身のやっていることは福祉ではなく、あくまでもサービス業だといわれます。「ここは病院ではないのだから、治療するところではない。ただ、地域のお年寄りが生き生きと、元気になっていただけるための場所でありたい」との弁。

 手すりやスロープ、風呂やトイレの改装など大幅に手は加えたものの、中庭の灯篭や欄間、意匠をこらした日本建築の一つ一つ、施設の中は歴史やドラマが刻まれた味のあるものばかりです。

 冷たい床、消毒の匂いがするディサービスが多い中、家にいるときより居心地が良いと高齢者が思える場所こそが「やさしい建物」ではないでしょうか。施設は4月に開設しましたが、一日30人の定員で、毎日いっぱいという人気ぶりが、そのことを物語っています。 スタッフも、福祉の知識や資格で選ぶのではなく、まずお年寄りが好きか、そして、介護するというのではなく、お客さまとしてサービスができるかで選ぶのだそうです。元ホテルマンだったという若いスタッフもいました。

 現在、中庭に露天つきの大風呂を建設予定です。いずれはしばらく使用していなかった二階も開放し、ダンスホールなど地域のお年寄りのコミュニティの場にしていきたいと言われています。そのときには、料亭の時代には閉じられてしまっていた見事な遊郭時代の門が、再び開くのです。建物も同時に生き返り、生き生きと喜んでいるのが目に見えるようです。 ディサービス利用のお年寄りに話を聞くと「昔もここに遊びに来たもんだ、また遊びに来られて嬉しい」と目を細めて言われました。

 中村区は高齢化率が高い地域ですが、時代とともに忘れ去られた建物が、時代とともに今度は必要とされるものとなっていく…こうした試み一つで、人も建物も同時に町の財産になっていきます。なんて素晴らしいことかと思います。


(2001.9/山内豊佳 )