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老いる家 崩れる街−住宅過剰社会の末路/野沢千絵
 講談社現代新書/2016年11月15日発行

 「負動産」。最近手にした住宅、空き家問題の書籍で度々目にしてきた。負動産は、相続、世帯分離を経て迎える住宅の終焉時に、住めない、貸せない、売れない、壊せない、その結果放置される不動産として紹介されている。空き家問題は、この負動産も関係し、家屋倒壊や災害時の被害拡大、地域環境悪化、共同住宅では十分な維持管理ができない、スラム化など、建物単体の問題にはとどまらず社会問題化している。
 国内が人口減少、少子高齢社会へ移行する中でも首都圏を中心に超高層マンションは次々と建設され、一方で空き家は増加し、住宅を取り巻く環境は悪循環に陥りつつある。本書では、そうした住宅過剰社会において様々な住宅地で起きている問題に目を向け、その脱却方策を検証している。
 住宅地は、その位置、環境で様々あり、それぞれに異なる問題を抱えている。都市部では、鉄道駅周辺で通勤利便性を売りにした大規模マンションが林立し、一部の学区では若者世帯の急増により育児・教育環境が悪化、湾岸エリアでは高層マンションからの良好な眺望の陣取り合戦の果てに資産価値が低下。一方郊外では、自治体が人口増加を目論み無計画に規制緩和した結果、市街化区域内農地で相続税対策アパートが乱立。ニュータウンでは子供の独立、世帯分離後の回帰がなく、残された高齢者で採算が合わなくなった店舗が撤退。こうした住宅、居住環境の問題は、既に空き家問題と重なり、将来的には負動産化へとつながると懸念されている。
 住宅は、動産のように古くなり容易に処分、買替ができない不動産であり、その維持管理コストは意識するがその終焉コストが話題になることはあまりない中で今日に至る。著者が考える住宅過剰社会からの脱却方策は、住宅が負動産化しないための対策として示されているが、こうした状況に至るまで住宅を供給し、これからも供給し続けることになる社会へ警鐘をならしているとも読める。
 空き家問題のつけは、次世代、次々世代へ、または社会が負担せざるを得ないことも想定されるが、行政、住民、事業者がそれぞれの立場で負動産化しないよう取組むことが求められている。
 今の経済、建設業界は、前回の東京五輪前がそうであったように、景気拡大の契機、節目ともなる2020年の東京五輪に向けて沸いている。最近の空き家問題対象は、全てではないが前回五輪当時建築(築後約50年)の建物も一部対象ともいえる。今回の五輪は、民泊活用など一部で空き家問題対策にもつながっているが、社会経済、建設業界で重要なテーマとして捉え、より具体的な取組のきっかけになることに期待したい。

 (2017.3.22/村井亮治)