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求道学舎再生 集合住宅に甦った武田五一の大正建築/近角よう子 著

学芸出版社/2008年4月30日発行

 2008年日本建築学会賞(業績)を受賞した求道学舎の保存と再生をめぐる顛末を設計者であり、施主であり、住人である近角氏が語る。タイトルから最近流行の保存・再生の話の1つと思いこんでいたが、そうではなかった。武田五一の設計だから保存再生しようとしたわけではなく、様々な障害の解決策が築78年の学生寮(求道学舎)を集合住宅へリノベーションすることだったのだ。
 スタートは文化財として保存された求道会館(武田五一設計の仏教の協会堂)の維持管理費の捻出が目的だった。保存のための修理再生事業の所有者負担分は募金で集めることはできても、その施設を活用していくためのお金まで集めることはできない。そこで出てきた案が隣接する学舎の2/3を取り壊して分譲マンションにという構想だ。道路条件・敷地条件がよい土地であれば、そのまま武田五一の作品がなくなっていたところだが、条件の悪さから採算があわずボツに。その後、改修による賃貸案やオンボロのまま格安で貸し出すという案まででたという。そして最後にたどついたのが定期借地権分譲だった。
 すでに鉄筋コンクリート造の耐用年数70年を経過している建物にさらに62年の定期借地権を設定するというのは驚きだ。耐震診断、コンクリート強度調査、中性化調査などの結果をもとに建築研究所に相談したところ延命の見通しがたったという。しっかりと施工された建築物はもっと使えるということなのだ。
  耐用年数の高いスケルトン住宅に改修し、コーポラティブ方式によって入居者を募る。難しい入居者確保も武田五一の設計した建物の再生ということで話題をうみ、ウェイティングリストまでできたという。
 著者は「文章を書くとなると葉書一枚書くにも四苦八苦する私」と書いているが、相当考えられて文章にされているのだろう。どんどん先が読みたくなる読ませる文章だ。こんな著者が設計した家ならさぞ住みやすいに違いない。

(2009.3.14/石田富男)