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商業・まちづくり 口辞苑/石原武政著

碩学舎/2012年4月20日

 初めて石原武政氏(現、流通科学大学特別教授)の著作に出会ったのは「小売業の外部性とまちづくり」(2006.3 有斐閣)である。この書評はすでにこのスペーシアのメールマガジンに掲載(NO.169 2006.12.25)されているので触れない。氏はマーケティング競争論、流通政策の専門家である。まちづくりから商業に言及する研究は多いが、商業からまちづくりに言及する研究はさほど多くない。あったとしてもその参考文献を見ると、商業研究者のものがほとんどであり、商業ムラ社会の域を出ていない。しかし、先の著作は都市計画分野の書籍を丹念に読み込んで分析している。なかでも私たちが翻訳した「よみがえるダウンタウン-アメリカ都市再生の歩み−」(フリーデン&セイガリン 北原理雄監訳 1989 鹿島出版会)が扱われていた。そのため、現金なもので、親近感を感じた次第である。それをきっかけに講演会やシンポジウムの基調講演を氏にお願いすることになり、今日まで付き合いが続いている。氏は現場重視の研究者であり、気さくで分け隔てなく、関西人特有のユーモアを持って対応していただいている。そんな気質がこの著作を創りだしたと言える。
 「こうじえん」と言えば、岩波の「広辞苑」、そして相原コージのギャグ漫画「コージ苑」、が思い浮かぶが、これは「口辞苑」。辛口の解説を加えた辞典という意味だろうか?この著作の特徴は、390項目の商業・まちづくり用語を必ず1.建前と2.本音の対で記述している。2.本音の部分が「悪魔の辞典」的だと言われている。商店街の現場に出てみると本当にそう考えている?といった建前の会話が多く、それが判断を誤らせるという問題意識がそこにはある。本音に言葉の真意がある。
 例えば、「空き店舗問題」:(意訳)1.十分な品ぞろえができなくなり、魅力低下、集客力低下が他の小売店の経営基盤を脅かすこと、2.全ての空き店舗を埋めようとするが、商圏内購買力が低下しているため非現実的といった問題や空き店舗がなくなればいいということで、風俗店などで埋めて雰囲気を一変させる問題があり、店舗交替をコントロールする努力を放棄して、補助金を引きだそうとする不純な動機が隠されている。
 例えば、「コンサルタント」:(意訳)1.略、2.大小様々な規模の事業者があるが、バブル後その棲み分けが崩され仁義なき戦いが進んでいる。大手だからと言って、優秀な人材がいい提案をするとは限らない。大手といえども担当者が決まれば個人仕事に近くなり、他の人の成果は引き継がない。遠距離コンサルに頼むと土地勘のないまま報告書が出来上がったり、コンピュータの一括変換を過信して、九州の計画文書に東北の地名が登場した笑い話がある。
 405ページもの大部であるが、一気に読み通さなくても、まさに辞書的に活用したり、時間が空いた時にパラパラと気になる用語を読んでみるのもよい。トイレに一冊置いて、一日一回にいくつかの項目を読む習慣をつけてもよい。
 実はこの本は著者から寄贈されたのだが、紹介するに足る内容であるから紹介していることは強調したい。これはホンネである。石原先生に代わって一言、「ほんま、ええ本でっせ!」

 (2012.5.7/喜田祥子)