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決定版!グリーンインフラ/ グリーンインフラ研究会、三菱UFJリサーチ&コンサルティング、日経コンストラクション編
日経BP社/2017年1月24日発行

 グリーンインフラは近年、自然災害リスクの増大や深刻化する地球環境問題、人口減少などの社会課題を解決する方法として注目されている欧米発の社会資本整備手法である。本書によると「自然が持つ多様な機能を賢く利用することで、持続可能な社会と経済の発展に寄与するインフラや土地利用計画」と定義されている。自然の力を活かして、環境保全や生態系保全だけでなく経済振興や防災・減災を両立させ得る手法といえる。国内でも2015年の国土形成計画ではじめてこの言葉が登場している。
 本書ではこのグリーンインフラに関わる世界の動向から、国内外の先進整備事例を多数紹介している。敷地や街区単位のものから流域単位のものまで大小さまざまなスケールのグリーンインフラについて具体的な解説がなされている。
 先進都市ポートランドでは、雨水を地中浸透させるために雨庭や緑溝、グリーンストリートを敷地や街区で計画的に整備し、自然を活かして雨水流出を抑制すると同時に緑ある都市空間として価値を向上させている。シンガポールのビシャン・パークでは排水に特化した直線的な都市河川を、川幅を拡大させ氾濫原を内包する広大な都市公園に造り変えることで、治水と同時にコミュニティやレクリエーションの場にもなっている。国内からは、首都高大橋ジャンクション屋上に整備された水田や庭園、荒川流域に整備された調整池やビオトープ、佐賀県松浦川流域で整備された遊水池であるアザメの瀬、佐渡島両津福浦の津波避難道整備などが紹介されている。いずれも自然を活かしながら、防災や景観、コミュニティ、学習、自然体験、地域活性化などの多面的な機能を有している点に特徴があり、そこが従来の人工構造物である「グレーインフラ」との大きな違いとなっている。
 ただし、自然の機能を効果的に発揮させるためには、放置していては機能が損なわれるため、細かい維持管理が必要になる。また機能が多分野に渡るため、縦割りではなく横断的にガバナンスできる体制も必要になる。そこで成功の鍵になるのが身近にいる「多様な主体の参加」や「合意形成」、「協働」だという。そのため、グリーンインフラを構築することで、地域とともに持続可能な社会を形成することにもつながっていく。
 国内ではグリーンインフラの実績はまだまた少ない。今後のまちづくりへの実装に向けて参考になる一冊である。

(2017.5.10/櫻井高志)