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地域生態学からのまちづくり 共生環境のマネジメント/上甫木昭春 著

学芸出版社/2009年9月発行

 環境への関心が高まる中、都市をデザインする上で、緑地の回復や保全、創出は大きなテーマとなっている。都市計画分野では、「緑地」や「みどり」とひと括りで表現されることが多いが、その中身は実に多様である。
  本書は、緑地環境のあり方やプランニングを地域生態学という観点から実例をもとに優しく解説しれくれる。地域生態学というと、動植物などの生物分野の話かと思われるが、それだけでなく、「地域環境を構成している様々な要素」、つまり地形や植生などの自然、建築物や都市などの人工、歴史や風俗などの歴史的要素など、あらゆる視点を指しているのである。
  例えば、住宅開発の中で樹林地を保全する場合、生物多様性の大小、人による利用の大小(レクリエーションで使うのか外から鑑賞するだけなのか)などによって、樹林を構成する樹木の種類や粗密、規模などは当然異なり、保全の仕方も変わってくる。
  都市域で生き物に配慮した屋上・壁面緑化を進めようとする場合、例えば、アゲハを誘引しようとするには、地上に高木並木があり、そこから連結する視認性の高い壁面緑化、さらに屋上に産卵しやすい緑被環境があることが重要だという。アゲハの行動特性を分析するとこのようなことがわかるのである。
  神社林などの歴史的緑の場合、古地図や絵図などの資料をもとに過去からの変容を把握し、同時に地域の暮らしや風習などとの関わりも探ることで、神社林でもそれぞれ担う役割も緑のタイプも異なり、保全の方向性も当然変わってくることがわかる。
  このように、本書では、具体的な事例を著者が実際に調査した結果をあわせて、いくつも挙げ、緑地を考える視点・手法を様々に提供してくれる。都市デザインにとって、地域生態学は必要な分野のひとつといえる。興味ある方は本書を入門に学んでみてはどうだろう。

 (2013.1.22/櫻井高志)