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「51C」家族を容れるハコの戦後と現在
/鈴木成文、上野千鶴子、山本理顕、布野修司、五十嵐太郎、山本喜美恵著

平凡社/

 毎週、土曜、日曜の朝には大量の広告が配達されてくるが、大半がマンションやハウスメーカーのものである。そこには設備やセキュリティー、デザインなどの売り文句が書かれ差別化を図ろうとしているが、どれにも共通しているものは、間取りを示す3LDK、4LDKという記号と、それになぞらえて造った、平面プランである。キッチンがオープンか独立か、和室があるかないか、と言った違いこそあれ、基本は個室がいくつありキッチン、ダイニング、リビングがあるという記号が示す、nLDKタイプですべての住宅が計画されている。個人のニーズがこれだけ多様化した現在、このnLDKタイプというものだけに、私たちがあたりまえのように住んできたのはなぜか。こうした問に答えようとしたのが本書である。
 ここで、補足しなければならないことがある。一般の方には、このnLDKタイプというものに、意義を唱える方は圧倒的に少数であろう。しかし、住宅の研究者や建築家は、長らくこのタイプに替わる新たな住宅の間取りを創造すべく、情熱を注いできており、そうした視点で本書は書かれている。
 さて、このnLDKというタイプの元となったのは本書の題にもある「51C」型と呼ばれるプランである。これは、戦後の住宅難の時代、1951年に計画された公営住宅標準設計C型の通称であり、生みの親は、本書の主役、鈴木成文氏である。私も学生時代、氏の授業を受けたが、長らく「51C」型とnLDKが一直線に結びつかず、もやもやしていた。本書ではっきりしたことは、「51C」型で実現したのは、「食寝分離」から生まれた「ダイニングキッチン」と「寝室の分解」から生まれた「2つの寝室」であった。それを、わずか35uの住宅に入れ込むため、巧妙な機能の分離と重合が行われ生まれたのが「51C」型であった。つまり「51C」型は2DKである。
 その後、日本の成長と共に住宅内には物が増えていき「リビング」が付け加えられ、寝室も夫婦と子供2人のものが付いた3室になり、日本の標準間取りが3LDKとなっていく。そして、この3LDKは住宅産業の商品として、大量に供給され一般に浸透していったようである。
 この本の山場のひとつは「ダイニングキッチン」誕生の話である。そこに書かれている「台所で食事をするという生活は、調査でも一割ほどの世帯で見られた。10%という数字は統計的には無視されてしまいがちな量であるが、そこに"これからの姿を見た"と思ったのである。」というくだりは、鈴木氏の興奮が伝わってくる。

 さて、私は現在自邸を設計中であるが、まず、このnLDKにとらわれないことから始めている。今検討中のプランをあえて記号化するなら、1〜2S+3〜5R+K(1から2室になる倉庫と3から5室になる部屋とキッチンがある家)である。しかし、nLDKから外れることに、最も大きな壁として立ちはだかるのは、ステレオタイプにどっぷりつかった妻の存在である。彼女と話していると、人の生活というものがいかに保守的であるかが分かる。50年以上もnLDKタイプが住宅の間取りを支配してきた事実は、いつの間にか生活にも未来を夢見なくなってしまった"現代"という時代を映しているような気がする。

  (2005.2.15/堀内 研自)