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阪神大震災が教えてくれたもの

1.はじめに

 阪神大震災が様々な分野で大きな衝撃を与えている。被害は局地的ではあったが、我が国ではどこで発生してもおかしくない状況にあり、人ごとではない。住みたいまちの上位にあげられていた神戸を直撃したことも衝撃が大きい。都市計画についていえば、先進都市と思っていた神戸において、様々な矛盾が一挙に表面化し、これからの都市のあり方に多くの示唆を与えている。あまりに多すぎて整理しきれないが、マスコミやパソコン通信による様々な情報や現地を見た中で、これまでに感じたことを列挙してみたい。

2.神戸式都市経営の矛盾

 神戸は優れた都市経営で他都市から羨望のまなざしでみられてきた。これまで、このような神戸のやり方に対する批判は表面化してこなかったが、この震災を契機に神戸式都市経営の矛盾をつく声が大きくなってきた。被害を目の当たりにして、初めて気づかされたことも多い。神戸の光の部分だけに目を奪われてきたことを改めて思い知らされる。

3.循環都市の重要性

 都市における水循環とゴミ循環の重要性を実感として教えてくれた。ライフラインのうちで、最も復旧が遅れているのが水道だ。遠くの水源に依存しているために、供給経路が断たれてしまったら、それより下の部分には供給できない。快適なはずの水洗便所が使えない。水循環によって、地域の自己水源が確保されていれば、雨水利用が行われていれば、こんな問題は起きなかったであろう。ゴミも処理されないままに溜まっていく。ゴミを減らすこと、地域の中で循環させることの重要性が大震災によって浮き彫りにされたといえよう。

4.ボランティア

 震災で失ったものも多いが、得たものもある。それは人間のすばらしさだ。被災者同士の助け合いや多くのボランティアが駆けつけたことは、未来の明るさにつながる。真野地区で長田のような大火災が避けれたのは日頃のコミュニティ活動の蓄積があったからという。行政の対応のまずさが指摘されているが、行政がすべてに対応しようとしたところに無理があった。行政では対応しきれないことは、住民やボランティアにやってもらう。これからの防災対策の1つに日常的なコミュニティ活動とボランティアを大きく位置づける必要がある。

5.復興にむけて

 復興に向けて様々な指摘・提案がされている中で、注意したいことがある。それは、震災対策を理由にこれまで蓄積されてきたことが否定されてしまうことだ。電柱の地中化について、復旧に時間がかかるから、地中化はよくないという意見がある。(ただし、この点については、電柱の倒壊による被害が大きいこと、地中化している部分の被害が少なかったことから、逆に地中化を推進すべきだという論調が優勢のようだ。)また、道路の舗装について、インターロッキングは修復に時間がかかるからアスファルト舗装の方がよいという意見がある。修理のしやすさだけを考えて、無味乾燥なアスファルト舗装にしてしまう方がいいのか。安全性が最優先されることによって、これまで蓄積されてきた都市デザインの流れを無視してはならない。

 神戸の街なみを形成してきた歴史的建造物も多くが破壊されてしまった。このような場合、ヨーロッパの都市では、もとのままに復元するというが、果たして神戸でそれが可能か。安全性を理由に(本当は経済性を優先して)、全く新しい街なみが作られてしまう可能性がある。

6.おわりに

 神戸の復興はこれからの都市のあり方を大きく左右するような影響を与えるだろう。都市が復興事業で儲けを得ようとするものの餌食になってしまうのか、それとも本来のあるべき都市像を実現するチャンスとなるのか。様々な指摘、提案の中で本当に必要なのは何かを見極めることが求められているといえよう。

 (石田 富男)