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 バルト沿岸都市視察調査 3

  以下の文章はすでにフェイスブックで掲載していますが、つながっていない方々のために、若干アレンジして再掲することとしました。今回は3回目となります。

V−ヘルシンキ
■フィンランドとヘルシンキの概要 
フィンランドの人口は550万人弱(2016)で、デンマーク(560万人)より少なく、ノルウェー(510万人弱)より多い。北欧諸国の人口は多くなく、先に述べた国々は愛知県よりも少ない。国土面積33.8万kuと日本より少し小さい。
フィンランドの産業は森と湖の国らしく、森林資源を活かした製紙・パルプ・木材が中心であるが、あわせて情報産業の盛衰がフィンランドの経済成長を左右している。ノキアの成長はフィンランドの成長であったが、アイフォーンやサムスン等に押され、選択と集中がなされた。最近ではソフトバンクの株売却で有名になったスーパーセル(スマホゲーム「クラッシュ・オブ・クラン」が代表)の本社がある。オープンOSのLINUXもこの国であり、ファブリックのマリメッコもブランド力を持っている。 ヘルシンキはフィンランドの首都で人口は62万人(2015)である。
訪問した6月末(6月20日?26日の土曜日、すなわち6月25日)は夏至祭の日を含んでいたので、その2〜3日前から多くの店は閉じられ、また小雨が降ったこともあって、にぎわいに欠ける都心であった。この都心で関心を持ったのは主に二つ。一つは街区内の中庭共用空間の活用とパサージュ、もう一つはモールや公園をはじめとする公共空間の活用の二つである。

■街区内の共用空間の活用とパサージュ
ヨーロッパ諸都市の都心では街区を囲むように建築物が配置され、街区中央部等で生まれる中庭は、共用空間であり、私的領域ではあるが一種の公共的空間となる。名古屋で言うなら会所(閑所)であるが、それよりも規模が大きい。そこでは、まったくの開放空間の場合もあるが(その場合は比較的低い建物で囲われている)、ガラス屋根が架かり、雨の日も傘を差さず楽しめる空間が形成され、多くはカフェ・レストランとして利用されている。一種の商店街のアーケード的であるが、通路というより、中庭的である。形状は個々の中庭空間によってまちまちで、密閉空間でなく半開放空間のものが多い。表通りから中庭空間に行くにはビル内の通路が通っていくことになる。ビルは閉館されていても、通路は通行可能で、その通路に向かって店舗が開かれている場面は多々ある。
一般的にパサージュは、ガラス製屋根の通路の両側に店舗が並ぶ商業空間を言うが、中庭に向かっていく通路もここではパサージュとよぶ。
このような空間があることによって、表通り・通路(パサージュ)、中庭といった多様な屋外空間を提供し、歩いて楽しめる都心空間を形成する。このような空間は、観光客はもとより、ビジネスパーソンもコミュニケーション空間を提供する。クリエイティブクラスが集まる都市が成長するとしたリチャード・フロリダは、著書「新クリエイティブ資本論」で「場所の質(Quality of Territory)」を取り上げている。その場所では@建物と自然が融合し、A多種多様な人材の存在と相互に影響しあう開放的なコミュニティがあり、Bストリートライフ、音楽、芸術、カフェ文化、アウトドア活動の人々が、アクティブとクリエイティブな取り組みが行われている、そのような活動が存在することを差す。その場所は都市レベルのものからストリートレベルのものまで多様に考えていいであろう。
名古屋の都心栄エリアの活性化を考える場合、拡充された会所(閑所)の今日的活用が大きなテーマになるようだ。

■モール等の活用
ヨーロッパ都市の都心には、自動車を排除した歩行者専用の通り=モールがある。当初は自動車に占用されていたが、安心して歩ける空間こそ人々が集まる事例の積み重ねで、どんどんモールが広がってきた。ヘルシンキ中央駅とエスプラナーディ公園とを結ぶ南北のケスクス通りは、二段階に分け自動車を排除してモールを実現した。そこには大型店・専門店が並び、路上ではカフェあり、露店あり、演奏ありと多様な活用がなされている。マリメッコの店(生憎夏至祭で閉店)では、休憩できる?クッションが店先に5つも置かれていた。モールは着実に延長を伸ばしている。
エスプラナーディ公園では本格的なレストランやカフェ、大道芸人が活動できる場、樹木のアートなど、楽しめる公園として整備されている。その延長上にマーケット広場とオールドマーケットの商業施設(ここも夏至祭で休館)が配置され、自然と人々は港の方に足を運ぶようになる。
冬場は厳寒でとても屋外でコーヒーなどが飲めないが、おそらく春秋の気候のいい季節のために、モールが整備されてきている。デンマークのコペンハーゲンでも初めてモールを導入するにあたって、新聞で寒いこの国では普及しないであろうと論評されたが、結果は市民に好評であり、どんどん延伸されていった。屋外空間の楽しさは誰もが求めるのである。




岩の教会と木の教会

岩の教会はフィンランド福音ルター派教会で、戦前にはフィンランド工科大学のヨハン・シハン氏の添付写真の設計で、建設される予定であったが、ソ連との冬戦争に勃発(1939)で中止になった。戦後改めて設計コンペが行われ、スオマライネン兄弟の設計が採用され、今の教会として整備(1969)された。
木の教会はカンピ礼拝堂(2012)と呼ばれ、それほど大きな建物ではないが、存在感はある。

パサージュ1
ビルの中庭を活用した半公共空間で、ガラス屋根が架かっているので、明るく、雨が降っても濡れない空間になっている。屋根の架け方がユニーク。

パサージュ2
ここは中庭というより通的でパサージュに近いイメージである。ここはしっかりとガラス屋根で覆われている。

パサージュ3
ビルの中庭空間にガラス屋根をかけて、中華料理店の席数を拡大している。

モール1
ヘルシンキ中央駅へつながるケスクス通りの風景

モール2
ケスクス通り(モール)にある屋外のカフェ。このカフェは植栽に凝っている。

モール3 
ケスクス通り(モール)にある屋外の屋根付きカフェ。

モール4
ケスクス通り(モール)で演奏するカルテット(4人組)。周りには人々が集まってくる。

公園
エスプラナーディ公園の樹木に赤地に白玉の布を巻いたアート。

アカデミア書店
世界的に有名なアルヴァ・アアルト設計のアカデミア書店。私は見ていないが日本映画「かもめ食堂」での撮影場所でのひとつ。サンクトペテルブルクの書店とは異なりモダンな書店である。
(2016.12.5/井澤知旦)