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行政に頼らない町屋の再生/新潟県村上市

  新潟県村上市は酒と鮭のまちとして知られ、新潟県の最北端にあり山形県に接する。東海地方からは中部国際空港または県営名古屋空港から新潟空港まで1時間、空港からは車を利用してさらに1時間でアクセスできる。山城の村上城跡(国指定史跡)の麓に城下町が広がり、山車”おしゃぎり”が練り歩く夏の村上まつりが有名である。少し前の話だが、秋の「町屋の屏風まつり」にあわせて村上市を訪れたので、その結果を報告する。
 村上市の中心部は、近代化の波を受けて外観がアーケード、サッシ、トタンなどで覆われた建物が立地する“普通の町”となった。しかし、村上市は戦災にあっていないため木造の建物が結構多く残り、一歩家の奥に入ると昔ながらの空間が残されている店が少なくない。この日はあいにく雨が降ったりやんだりしていて、雨宿りをした時に一見、外観だけを整備したお茶屋さんと思って入った家屋が、一歩中に入ると木造の立派な内部空間が広がっていた。お店の人に聞いたところ江戸時代からの建物だという。それ以外にも年季の入った建物がそこかしこでみられた。
 まちを一通り見学した後、村上における「行政に頼らないまちづくり」の中心人物である吉川真嗣氏にお時間をいただき、まちづくりの経緯について説明をお聞きすることができたので紹介する。
 吉川氏は元々は村上のまちが好きではなかったそうで、高校を卒業すると一旦はよそに出て大学、就職をした。その後、家業である伝承の鮭料理の製造・加工販売業の店に勤めるべく村上に帰ってきた。その頃、本店前の県道が道路拡幅計画に引っかかっていることを知り「道路拡幅による城下町の破壊から、町屋を守れ!」を合言葉にまちづくり活動を始めた。主な取り組みは以下のとおり。
■町屋の内部を公開する取り組み
  ・マップ「城下町村上絵図」を1998年に作成。
  ・春の「町屋の人形さま巡り」を2000年から毎年実施。
  ・秋の「町屋の屏風まつり」を2001年から毎年実施。
■建造物等の再生
 ・「黒塀プロジェクト(黒塀1枚1,000円運動)」を2002年から開始。市民から寄付を募り、黒塀づくりも市民が手作りで行い、2008年までに340mの黒塀づくりを行った。
 ・「町家再生プロジェクト」を2004年から開始。近代化された外観やアーケードを取り外し、昔ながらの外観に再生する取り組みとしてスタート(外観再生への補助80万円)。補助金は全国の人々に呼びかけ会員を募り、会費によって賄われる。プロジェクトの趣旨に賛同して自主的に改修した“協力店”等も一部含んで2013年までに26軒を再生した。2014年からは空き家になった町屋の再生に補助する新制度をつくり(100万円)、4軒再生した。

 少しずつ地元の賛同者を増やしつつ、町並み保存に関わる全国各地の人々との交流も図りながら、15年程の間に様々な活動に取り組んできた。こうした活動が評価されて2008年国交省都市景観大賞「美しいまちなみ大賞」、2009年内閣総理大臣賞「あしたのまち・くらしづくり活動省」を受賞した。東海地方からは遠いと思っていたが、飛行機でいけば日帰りも可能である。歴史的な建物や町並みの保存に関心がある方なら、一見の価値がある町だと思う。


吉川さんのお店「味匠喜っ川」と隣の建物。喜っ川が外観を自費で再生し、後年になって隣家も外観を再生して連続した町並みが生まれた。

喜っ川の内部を見せていただいた。多くの鮭がつるされている。

お茶屋「九重園」の外観

九重園の内部空間。屏風まつりにあわせ、所有している屏風や漆器などが並べられていた。

黒塀づくりで行われた路地。奥の建物は銀行の社宅で売却されるところを吉川氏が買い取り、吉川氏の個人宅に。「浪漫亭」と名付けられて国登録有形文化財に登録されている。
(2015.12.24/浅野健)